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Family Academy

記憶力向上の秘訣 情報を引き出すトレーニングとは

 現在、文部科学省によって進められている高大接続改革は、教科書の内容を覚えているかどうかではなく、理解し、活用できるかを問う入試への転換をめざしています。昨年、大学入試センター試験の後継となる「大学入学共通テスト」の試行調査(プレテスト)が実施されましたが、出題内容がこれまでとは異なり、思考力や判断力、表現力を重視したものとなっています。しかし、豊かな知識があってこそ活用につながるというものです。そして、知識の獲得には記憶力が大きく影響しています。そこで、「なぜ名前だけが出てこないのか」などの著書もあり、テレビ等で記憶や夢について解説している澤田誠教授に、記憶のメカニズムや記憶力を高める方法についてお話をうかがいました。


澤田誠教授

名古屋大学環境医学研究所・脳機能分野教授。東京工業大学理学部化学科卒業。東京工業大学大学院総合理工学研究科生命化学専攻博士後期課程修了。理学博士。著書に『文藝春秋スペシャル2017 夏号・もっと言ってはいけない脳と心の正体』(文藝春秋)、『洋泉社MOOK・最強の記憶術』(洋泉社)、『一個人(6月号)・あっ!名前だけが出てこない!!』(KKベストセラーズ)、『子供の科学・キミのハテナを科学するなぜ?なぜ?どうして』(誠文堂新光社)、『Annual Review2015 神経・神経炎症におけるミクログリアの多様性』(中外医学社)、『なぜ名前だけがでてこないのか』(誠文堂新光社)など。
※所属、役職などはすべて取材時のものです。

脳とコンピューターの違い 脳の記録容量は17.5テラバイト

 記憶力は脳の特徴を生かすことで向上させることができます。そのためには脳の仕組みを理解することが必要です。脳はよくコンピューターに例えられたり、対比されたりしますが、脳とコンピューターは多くの点で異なっています。外部の情報を記録するという点では同じですが、脳の中には、情報そのものが記録されているのではなく、取捨選択された情報の一部が記憶として蓄えられているのです。
 また、脳の記憶容量は無限ではありません。脳を構成する神経細胞の数などから、脳の記録容量は17.5テラバイトと言われています。最近ではテレビや映画の録画容量で1テラバイトのハードディスクが販売されていますが、これは地上波のハイビジョン放送で120時間程度の容量です。非常に大きな容量と感じるかもしれませんが、私たちが日々受け取る情報はさらに膨大ですので、そのすべてを記憶することはできません。17.5テラバイトあると言っても、脳の記憶容量は有限なのです。そこで脳は蓄える情報量を少なくするため、すべての情報ではなく特徴を抽出して記憶容量を節約しています。例えば、人の顔を覚える際には、詳細を一つ一つ記憶しているのではなく、顔の輪郭や目鼻立ちなどその人の顔の特徴を抽出して記憶しているのです。

記憶する能力に差はほとんどない
大事なことは情報を引き出す力

 脳の中には「マインドセット」という蓄積された情報のかたまりがあり、中身は個々人で異なっています。実際には神経細胞がつながった神経回路なのですが、人によって経験や環境などは異なるため、その中で自分にとって必要なもの、大げさに言えば、生き残るために必要なさまざまな知識が蓄積され、一つの仮想空間を構築しています。このマインドセットを作るためには、情報をインプットする必要があります。多少の個人差はありますが、情報をインプットして覚える能力に差はほとんどありません。マインドセットを作る能力は、誰でもだいたい同じぐらいの能力だと言えます。
 では、記憶が得意な人と苦手な人の差はどこにあるのでしょうか。記憶が苦手な人は、覚えていないのではなく、情報が脳の中にあるがうまく想起できない、つまり必要な情報をタイムリーに思い出せないだけなのです。このように必要な情報をうまく引き出すことができるかどうかが記憶力の差となっています。この記憶をうまく引き出す力は、トレーニングによって鍛えることで向上します。

快、不快の感情である“情動”により情報は重み付けされ更新される

 脳はすべての情報ではなく、取捨選択をして情報を取り込んでいます。これは新しい情報をマインドセットに取り入れるかどうかを選択しているとも言えます。言わば、マインドセットの更新作業です。そして、情報の取捨選択には感情が大きく影響しています。感情には快いと感じるものと不快に感じるものがあり、そうした喜び、悲しみ、怒り、驚きといった心の動きを“情動”と言います。情報の取捨選択の際には、情動の大きさがバロメーターとなって、重み付けがなされます。生存のために必要なこと、あるいは危険なことは特に大きく情動が反応します。情動が大きければ大きいほど、脳は重要な情報と判断して記憶に留めます。そのため、よく覚えていることになるのです。また、こうした情報は引き出しやすくなるように他の共通した情報と「紐付け」がなされてひとかたまりの情報として記憶されます。その構成要素となっている情報は他の記憶のかたまりと重複して構成要素となっていることが多いので、必要な情報を必要な時に効率よく思い出すにはそのかたまりにたどり着きやすくする、つまり「紐付け」を強化することが重要です。これは本の索引のようなもので、うまく活用すれば思い出す力を強化することができます。
 こうしてマインドセットが作られていくのですが、私たちが生活している環境は日々変化しています。そのため、脳は変化する環境に合わせてマインドセットを更新する作業を行います。新しくインプットされた情報は、情動によって重み付けがなされ、類似性のある以前の記憶と比較され、新しい情報の重みの方が大きく、以前の記憶の代替となり書き換えても支障がないと判断されれば、マインドセットが書き換えられるのです。なお、この更新作業は寝ている間に行われています。
 情動が大きいと重み付けがされて、よく記憶されますが、どのような情動でも良いかというと必ずしもそうではありません。例えば、怖い体験は生存にかかわるため情動を強く動かします。そのため、英単語を覚えるのにホラー映画を利用することも考えられますが、実はあまりお勧めはできません。なぜなら、恐怖による記憶は情報が断片化されるという性質があるからです。そのため、英単語や数式など一続きで意味をなすものは、断片的に記憶に残り、一部しか覚えていないということが起こり得ます。ホラー映画よりは、脳にとって快い恋愛映画などの方が、周辺情報も含めて記憶に残りますのでお勧めと言えます。また、新しいことの発見や探索なども脳にとって快いものです。新しい知識に「なるほど」と思って納得することも、言わば発見ですので脳にとって快いものだと言えます。そのため、漢字を覚える際には、“へん”や“つくり”などから漢字の成り立ちを知り、納得できる意味付けを伴って覚えると良いでしょう。
 では、次の項からは脳の特徴を生かした記憶力を高める3つの方法をご紹介しましょう。

<トレーニング1>何度も繰り返して覚えると脳が重要な情報だと判断する

 学習の際、脳にとって快いこととは興味を持って学ぶことです。面白いと思って興味を持って学ぶことが最適な学習方法だと言えます。子どもがゲームのキャラクターを数多く覚えられるのはそのためです。しかし、誰もがすべての教科において、常に興味を持って学習することができる訳ではありません。私たちは、興味がなくても覚えなければならないことがあるとき、繰り返して覚えるという行動を取ります。実はこれは脳の特徴を生かした方法なのです。繰り返し覚えようとすると脳が重要な情報だと考えて、情動による重み付けがされやすくなります。記憶の本体は神経細胞がつながった神経回路なのですが、同じ神経回路が高い頻度で使われると、脳が強化されるべき情報だと認識します。同じ刺激が繰り返されることで神経が情報伝達の効率を上げようとする「長期増強」という働きがあるのです。そのため、覚えようとしていることが、嬉しいことなのか、苦しいことなのかにかかわらず、強く記憶されることになります。何度も繰り返して覚えるという学習方法は一般的によく行われていますが、脳の仕組みから見れば理に適っていると言えるでしょう。

<トレーニング2>意味をつなげて物語を作り「意味記憶」を「エピソード記憶」に変える

 記憶には、行動や経験に基づく「エピソード記憶」と、単語や年号、名前など一定のルールで意味づけられる「意味記憶」があります。脳は、生存に必要な記憶を選択して蓄積するようにできているため、生死に直結する「エピソード記憶」は覚えやすく、生死に直結しない「意味記憶」は覚えにくいのです。受験勉強で覚えなくてはならないことは、ほとんどが「意味記憶」です。そこで「意味記憶」を覚えやすくするために、それぞれ意味のない個別の情報をつなげて物語を作ってしまうという方法が有効です。つまり、架空のエピソードを作ってしまうのです。英単語を覚える時などには、多少無理な設定の物語でも構わないので、各英単語をつなげて自分なりの物語を作ると良いでしょう。こうすることで各英単語を関連付けて、一つのかたまりとして覚えることができます。その結果、最初の単語の意味を思い出せば、次々に他の単語の意味につながって、思い出すことができます。覚えにくい「意味記憶」を覚えやすい「エピソード記憶」に変換することで、情報を引き出す力を強化するのです。
 また、情報を音にすることでリズムとして覚える方法も有効な学習法です。歴史の年号を覚える時に語呂合わせという方法が使われますが、これも「エピソード記憶」による記憶方法であると言えます。多くの方が「鳴くよ、ウグイス平安京」という語呂合わせで794年に平安京が造られたことを覚えた経験があるでしょう。数字の羅列である年号も、言葉に換えることで語呂合わせや音感から記憶に強く留まりやすくなるのです。

<トレーニング3>場所が記憶に大きくかかわる 工夫次第で記憶力を数倍にも増強できる

 生き物にとって場所は極めて重要な情報です。外敵に出会った場所や食料を得られた場所などは生存に直接かかわります。こうした生存に直接かかわるエピソード記憶は、いつ、どこで、何を、どのように、という情報で構成されており、そのうち最も重要なものが「どこで」という場所の情報です。そのため、脳は場所の情報を覚えることは得意なのです。つまり、場所の情報は記憶の「紐付け」の索引として活用されやすい情報なのです。この場所の記憶にかかわる「場所細胞」は、「海馬」という記憶の情報処理の要となる器官の神経細胞の20%も占めていることから、「場所細胞」の活動を刺激しながら覚えることで、記憶力を数倍増強できると考えられます。
 実際に場所をうまく使うことで記憶力は向上します。例えば、英単語を覚える時に、ある単語は玄関にある物、別の単語は階段を上がった所にある物、などと自分の家の中の物と結びつけて覚えるのです。これを体の部位に割り当てて覚えることもできます。例えば、親指はfamily、肩はacademyというように、体の部位に単語をあてはめて覚えることによって、親指を見るとfamilyを思い出しやすくなります。体の一部であっても場所の情報に変わりはありませんので有効な方法です。あるいは、日頃の通学路の景色やお店なども同じように活用できます。こうすることで、場所を思い出すとそれに付随して必要な情報が引き出しやすくなります。あてはめるものは自分の好みで決めれば良いでしょう。教科によって変えても良いですし、苦手な教科があれば、逆に自分の好きな物にあてはめて覚えると想起する能力が高まることでしょう。

偏りのない食事が脳にも良い食事 睡眠は重要な情報更新の時間

 脳に良い食品やサプリメントなどがメディアで取り上げられることもありますが、偏りがないバランスの良い食生活が身体にも脳にも良いのです。最新の研究では、身体の中の臓器はそれぞれに役割があり、脳を含めた各臓器が相互に連携して働いていることがわかっています。脳だけが健康でもそれだけでは十分に機能を発揮することができません。また、激辛の味付けなど身体に負担がかかる食品ばかりを摂取することは、巡り巡って脳にも影響しますのであまりお勧めできません。保護者が、受験生のバランスの良い食生活を支えることは、受験勉強の強力なサポートになると言えます。
 この他に保護者が受験生をサポートできることとして、睡眠時間が十分取れるよう生活のリズム作りを手伝うことも大切です。先ほど述べた脳内のマインドセットの更新作業は、寝ている間に行われますが、それには十分な睡眠時間が必要です。人が起きているとき、脳は新しく得られる情報の処理に追われているので、マインドセットの中の情報の入れ替え作業を行う余裕がありません。そのため、寝ている間に、その日の新しい経験と脳の中に蓄えられている過去の記憶とを照らし合わせて、必要だと判断した情報を整理・統合して再び記憶するのです。その日に学んだことを脳に定着させるためにも、受験生にとって質の良い睡眠が大切なのです。

頭の中が真っ白になったとき そこから抜け出す方法

 最後に、試験中にパニック状態になった場合の対処法について考えます。よく、緊張で頭の中が真っ白になって、試験問題に手がつけられなかったという話を聞きます。これは脳の中で、「周辺抑制」というメカニズムが働いているためです。周辺抑制は、脳が必要だと考える情報を抽出するために周りの情報の想起を抑制する機能で、たくさんある情報の中から必要な情報だけを浮かび上げることができます。試験の場合は、できなかったときのことに意識が集中してしまい、目の前の試験問題に関する情報が抑制されている状態になってしまうのです。人の名前など何かを思い出そうとすると余計に思い出せなくなるのも同じです。受験生はこうした場合に落ち着くための方法を持っておくことが大切です。対処法としては、意識を他へ向けることによって、抑制を取ることが有効です。具体的には、別の問題から先に解くといった方法が一般的ですが、答案用紙の名前を書き直したり、答案用紙に記入した受験番号をもう一度確認したりすることもお勧めです。こうして、意識を少し動かすことによって、周辺情報を手繰りながら、勉強したことを少しずつ思い出せば落ち着きを取り戻すことができるでしょう。







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