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Family Academy

渋滞の解消も受験勉強も、どちらも“ゆとり”が大切

 これからの大学入試では、知識の量に加えてさまざまな問題解決につなげる応用力が問われます。さらに、英語の資格・検定試験の受検も必要となることから、高校生の学習負担も重くなっていくと予想されます。今後はますます効率的な学習が求められますが、すべての高校生が効率的に学習を進められるわけではありません。思うように学習が進まない状態を保護者の目から見ると、さながら交通渋滞しているように見えるのではないでしょうか。そこで、「渋滞学」について多くの著書があり、渋滞の解消から企業の経営改善に至るまで、社会のさまざまな渋滞問題の解決に取り組む西成活裕教授にお話をうかがいました。


西成活裕教授

1967年東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター教授。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は数理物理学、渋滞学。2006年に「渋滞学」(新潮選書)で第23回講談社科学出版賞および第7回日経BP社BizTech賞を受賞。著書に『渋滞学』(新潮選書)、『東大の先生!文系の私に超わかりやすく数学を教えてください!』(かんき出版)、『とんでもなく役に立つ数学』(角川ソフィア文庫)、『シゴトの渋滞学』(新潮文庫)など。
※所属、役職などはすべて取材時のものです。

「渋滞学」とは、車に限らず 社会の流れを良くする学問

 「渋滞学」と聞くと車の交通渋滞をイメージする方が多いでしょう。しかし、社会の中での物の流れという視点で見ると、人混み、工場の生産ライン、物流などで何かが溜まった状態でうまく流れないことも広い意味での渋滞です。それらの現象を科学的に捉え、数学的な方法を用いて解決するのが、「渋滞学」です。私はもともと流体力学という水や空気の流れを研究する学問を専門としていました。研究をするなかで、世の中には車、物流などさまざまな“流れ”があることに気づきました。そのため数学と物理を用いて、科学的に“流れ”の視点から社会を見ることで様々な問題解決につながる「渋滞学」という新しい学問分野を切り拓きました。現在では「車・人・モノ」の三本柱を対象として研究を進めています。
 研究の成果が課題解決に結びついた事例はたくさんありますが、最近では、成田空港の入国審査の混雑緩和が挙げられます。これは渋滞学の視点で見ると、入国審査のカウンターをどのタイミングでいくつ開ければ良いかという最適化の問題です。飛行機の到着スケジュール、到着ゲートから入国審査カウンターまでの距離と移動時間、乗客数などに加えて、その日のカウンターの係員の人数などから、最適な人員配置を決めるプログラムを開発し、審査の混雑を緩和することができました。

工場の生産ラインから神経細胞内の“渋滞”まで幅広く研究

 「渋滞学」の研究対象は非常に幅が広く、工場の生産ラインや生産スケジュールの渋滞解消など業務改善にも取り組んでいます。最近は「働き方改革」の議論もあり、生産性を下げないで工場の生産ラインやスケジュールの効率を高めるための「ムダ取り」にも取り組んでいます。私は「日本国際ムダどり学会」の会長でもあるので、企業の経営改善も研究対象です。
 さらに、近年は医学分野にも渋滞学の視点で切り込んでいます。アルツハイマー病など神経細胞内で物質の伝達がうまく流れない状態をタンパク質の渋滞と捉え、タンパク質に影響のある栄養分の注入量をコントロールすることで、物質伝達の流れが良くなるという研究成果を論文にまとめ、トップレベルの自然科学誌に掲載されました。
 また、混雑が予想される大きなイベントとして2020年東京オリンピックがありますが、現在私は東京オリンピック組織委員会のアドバイザーとして、開催時の人の流れや混雑を解消するための方策を検討しているところです。最近では2025年に大阪で開催される大阪万博の関係者からも相談を受けています。こうした世の中の役に立つための研究を今後も進めていきますが、今注目しているのは「物流」です。ネット通販などの拡大に伴い、物流のスケールは今や世界規模です。そのため、陸海空の大きな空間レベルでの最適化を考えるとともに、最後は顧客の手元に届けるというきめ細かさも求められる分野です。今後は東京大学でも物流に関する講座を設けて専門的な研究を進める予定です。

受験はゴールが明確 そこから逆算して学習計画を立てる

 「渋滞学」の視点で受験勉強を考えた場合、成功のために最も重要なことは学習計画を立てることです。企業の経営改善においても、経営計画は極めて重要です。
 学習計画の作成には十分な時間をかけて良いでしょう。そして、計画を立てる場合は、志望校合格というゴールから逆算した長期計画を立てることが大切です。未来に設定された目標地点から、振り返って現在なすべきことは何かを考える、バックキャストという考え方です。人生の本来の目的は、受験のさらに先にあるため、本当はもっと長期的にバックキャストするべきですが、ここではひとまず志望校合格をゴールとします。
 学習計画の作成にあたり、まずはゴールを設定し、今の自分には何が足らないのか、どのような準備が必要なのかを考えます。受験に必要な教科・科目に加え、科目の中でも得意な分野、苦手な分野など取り組まなくてはならないことはたくさんあるはずです。そうした課題をできるだけ詳細に抽出し、表の縦軸に書き込みます。この課題抽出は非常に重要ですので、何となくといったレベルではなく、できるだけ綿密に行います。表の横軸は月日などの時間軸になります。建設や工場など、ものづくりの現場で用いられる工程表のイメージです。こうして作成された学習計画表によって、自身の学習課題とスケジュールを俯瞰的に捉えることができます。
 さらに、重要なことは作成された学習計画表に、学習計画の“流れ”を阻害するもの、つまり渋滞発生の要因となりそうな受験勉強以外のイベントを思いつく限り書き込みます。これは部活やさまざまな行事などが想定されます。こうすることで、学習計画表の渋滞しそうな箇所が特定できます。こうした流れの悪くなる場所は、瓶の首に例えてボトルネックと言います。

“流れ”には“ゆとり”が大切 変化に合わせて計画を見直す

 ボトルネックは、学習計画の流れを阻害する要因となりますが、その対策は理論上二つしかありません。ボトルネックを排除するか、その部分を流れる量を減らして、渋滞しないように調整するかのどちらかです。学習計画の流れを妨げるイベントを排除できない場合は、その時期の学習計画はあまり予定を詰め込まないようにして、学習量を減らすなど“ゆとり”を持たせることで渋滞を回避できます。
 この“ゆとり”は、学習計画全体にも必要です。物事はいつも計画通りに進むとは限りません。体調を崩したり、予想外のことで前のスケジュールがずれたりしたときのために、予定と予定の間に隙間を設けておくと良いでしょう。前の予定に遅れが出ても、その隙間が遅れを吸収してくれるため、後の予定への影響を最小限にすることができ、“流れ”がスムーズになります。「渋滞学」でも“ゆとり”という考え方は非常に重要です。車の渋滞の場合、前の車と最適な車間距離を空けて走ることが渋滞解消につながります。最適な車間距離とは、つまり“ゆとり”です。
 また、学習計画は一度決めたら最後までそのままということではなく、変化に合わせて見直す柔軟性も必要です。現代社会はこれまでにはない速さで変化しています。計画を頻繁に見直す必要はありませんが、環境の変動に対応することも必要です。あるいは学習を進めてみて、自分には無理な計画だと思ったときも見直すと良いでしょう。いずれにしても志望校合格のためには、学習計画がすべてと言っても過言ではありません。きちんとした計画を立て、学習計画とともにある生活を送ることができればきっと志望校に合格できるでしょう。

苦手分野への時間配分は2割増 あえて区切りの悪いところで中断する

 学習計画を立てるうえでのポイントの一つは、苦手な分野を学習するときの時間は、他の分野を勉強するときよりも2割増ぐらいで配分することです。苦手科目や苦手分野、難問を解く場合には、どうしても時間がかかってしまうため、計画段階から時間に余裕を持たせておくと良いでしょう。これも学習計画の“ゆとり”です。
 また、勉強を進める中で、他の教科の勉強に切り替えるときなど、途中で勉強に区切りを付けなくてはいけないことがあると思います。そんなときはあえて区切りの悪いところで中断することをお勧めします。数学の問題を解いているときであれば、式変形の途中でノートを閉じるなどです。こうした区切りの悪いところで勉強を中断すると、人はかえって気になるものです。ずっと気になっているため、中断していた勉強を再開すると、すぐに頭が以前の状態に戻ることができます。
 人は新しいことを考え始めて、頭の回転がトップギアに入るまでには、20分ぐらいのアイドリングの時間があるとの調査結果もあります。この時間は教科の切り替えに伴うロスと言えます。区切りの悪いところから勉強を再開することは、気になって常に思考が働いている状態であるため、流れが滞らず、すぐに再開前の状態に突入できます。私はこれを物理の慣性の法則にちなんで「慣性効果」と呼んでいます。“流れ”を良くすることで時間が節約できるのです。勉強時間を捻出するための工夫として、一度試してみると良いでしょう。この方法に慣れると、複数の科目を効率的に並行して勉強できます。

難問は時間を決めて解く 保護者は良い管理職たれ

 このほか受験勉強における渋滞について注意する点として、難問への取り組みがあります。難問を解く際は、深く考えるあまりつい時間をかけてしまい学習計画の流れが滞る可能性があります。その場合は、前もって時間を決め、時間が来たら答えに至らなくても、考えるのを中断し次の予定に進むと良いでしょう。意外な気分転換となって、解法のアイディアが浮かぶこともあります。
 また、自分が出題者になったつもりで問題に向き合うのも良いでしょう。自分で難問を作問することもお勧めです。こうすると入試問題に対する見方も解き方も変わり、本当の実力が付いていきます。

 これまで説明してきたように、受験勉強といういわば知的作業には“ゆとり”が必要です。ただ、保護者から見ると、つい学習計画の隙間を埋めて、効率を上げたくなります。しかし、ここで大切なことはプレッシャーをかけないで我慢して信じることです。効率が短期的に上がっても、長期的にはかえって逆効果なこともあります。
 企業でも上司が部下を否定しないで信用している職場は、仕事がうまく流れています。保護者は良い管理職としてお子さんを信じて見守ることです。学習計画表へのアドバイスなどを通じ、学習計画の内容を共有できれば、より安心して見守ることができます。その上で“ゆとり”も共有できれば、必ず良い“流れ”となるでしょう。







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