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人類史上、初の撮影に成功。
浮かび上がる巨大ブラックホールの姿。

テクノロジーの進化によりめざましい発展を遂げている人類。その恩恵は宇宙の謎という、もっとも根源的な問いを解き明かす手段としても大いに役立てられています。記憶に新しいのは2015年に初めて直接検出された宇宙からのさざ波「重力波」。その存在を確かめることは、一般相対性理論で予言していたアインシュタインでさえ不可能と考えていました。そして2019年。今度は、ブラックホールの撮影に初めて成功。その画像は、その存在を肯定する最強の証拠となりました。今回は、究極的な天体ともいわれる巨大ブラックホールを撮影したことで、どんなことがわかったのかを解説していきます。

巨大ブラックホールの謎に迫る史上最大級のプロジェクトEHT

アインシュタインの一般相対性理論は疑いようのない事実になった



2019年4月10日。世界6ヵ国同時記者会見で、ブラックホールの姿が公開されました(図3②参照)。このブラックホールの画像を見て、ピンとこない人も多いかもしれません。ブラックホールはこれまでCGや映画などでも表現されてきて、私たちのイマジネーションを固めてきたからと言えるでしょう。しかし、それらはあくまでフィクション。今回の画像は壮大なプロジェクトによって、人類が初めて視覚的に捉えた、紛れもないブラックホールの姿です。

今回のプロジェクトは、EHT(イベント・ホライズン・テレスコープ=事象の地平線望遠鏡)プロジェクトと呼ばれ、世界6ヵ所(ハワイ・メキシコ・米アリゾナ・チリ・スペイン・南極)、8つの電波望遠鏡を結合させ、一斉に観測を行うことで地球サイズの巨大望遠鏡を擬似的につくり出そうという計画でした(図2参照)。その大きさは直径10,000km、人間の視力に例えるならおよそ300万。これは、月面上に置いたテニスボールを地球から見ることができる視力に相当し、地球の軌道を周回するハッブル宇宙望遠鏡でさえ視力約1,500であることから、まさに史上最高の「宇宙を見る目」といえます。

今回のターゲットとなった天体は、いて座A*(天の川銀河の中心の巨大ブラックホール)と楕円銀河M87という銀河の中心にある巨大ブラックホール。そのうち、地球から5,500万光年先の後者の姿を捉え、画像化に成功したわけですが、アインシュタインの一般相対性理論(図1参照)以来、初めて視覚的に事実として証明された瞬間でもありました。

ブラックホールの画像から見えてきたこと

今回の画像は、ブラックホールそのものというより、ブラックホールが時空を歪ませることで作られる光のリングとブラックホールの影の様子を捉えたもの。ブラックホール自体は一切の光を発しないため写すことは不可能で、光のリングによって影絵のように浮かび上がった中心の黒い部分がブラックホールということになります。ここからわかることは、大きく2つあります。

ひとつは一般相対性理論(1915:アインシュタイン)やブラックホール解(1916:シュワルツシルト)で唱えられていた、強い重力場では光さえも曲げられ、最後には吸い込まれてしまうという物理学の法則が今回、ブラックホールのような桁違いに強い重力場で視覚的に証明されたこと。2015年にブラックホール同士の衝突による重力波が検出されましたが、今回の成果によって、重力波の検証とブラックホールの存在の証拠はより確固たるものになりました。

ふたつめは宇宙で最も明るく輝く高エネルギー天体である、活動銀河中心核の現象の謎に一歩近づいたこと。活動銀河中心核とは、銀河の形成、成長、あるいは銀河の中に存在する星の成長にも関わっており、ブラックホールから噴出する超高エネルギー「ジェット」や、銀河全体よりも明るい光度を誇る「クェーサー」など、まだまだ謎の多い天体です。今回、活動銀河中心核の真ん中にブラックホールがあることを突き止め、リングの大きさから太陽の65億倍という正確な質量が導き出せたことで、銀河の大きさとブラックホールの大きさは比例しており、ブラックホールが活動銀河中心核に起きている様々な現象のエネルギー源であることがより確かなものになりました。

超高エネルギー「ジェット」の撮影が新たな宿題に

ブラックホールの画像化という大きな成果を挙げることができたEHTプロジェクトでしたが、一方で、研究者たちが驚きを隠さなかったのが、「ジェット」が写らなかったことです。M87銀河の全体の写真にはジェットが写っているので(図3①参照)、その駆動メカニズムがわかると期待されていましたが、画像にしてみるとそれらしきものはどこにも見当たらなかったのです。このためジェットの謎の解明は、新たな課題として残されました。

現在、その謎を解き明かすべく、日中韓共同プロジェクト「東アジアVLBIネットワーク」によってジェットの根元の観測が行われており、観測されればブラックホールに対してジェットがどこにあるのかわかり、さらにはブラックホールが回転しているという証明にもつながるのではないかと期待されています。また、今後もEHTプロジェクトは継続され、2018年にはグリーンランドの望遠鏡がネットワークに加わり、2020年にはアメリカ、フランスにも1局ずつネットワークに追加される予定で進められています。観測地点が増えることで、宇宙を見る目の視力は450万となり、今回の画像よりもより鮮明なものが写り、さらには定常的にモニターできるようになれば、動画を撮ることもできるようになるといいます。これにより、ガスの状態や重力場の詳細な検証が可能になると考えられています。

物理学の新しい標準理論を構築するステージへ

今回、ブラックホールシャドウの撮影によって、ブラックホールの存在と一般相対性理論の正しさがより強固なものになりました。しかし、それはブラックホールの周辺までの話であり、「事象の地平線」から先の光すら引き返せない場所(ブラックホールの特異点)においては、一般相対性理論は破綻すると多くの物理学者は考えています。一般相対性理論は巨大なスケールではもっとも信頼されてきた重力理論ですが、そこから先は極小のスケールで物理現象を説明することができる量子力学の知見も必要と言われています。物理学の柱でありながら、水と油の関係にある2つの理論が統一された「量子重力理論」が構築されれば、ブラックホールの謎の解明に、さらに一歩近づけるかもしれないと考えられています。また、量子力学だけでなく、宇宙線物理学や素粒子物理学も、今後宇宙の謎を解く上では必要になってくる学問です。領域を融合しながら、より多面的なアプローチで迫っていくことが鍵となりつつある宇宙の謎の解明。今後も人類の未知の領域が開拓され、さまざまな事実が明らかになることが予想されますが、エキサイティングな出来事を一緒に分かち合っていきたい人は、物理学への扉をノックしてみてはいかがでしょう。

宇宙物理学と素粒子物理学の領域融合
私たちの身の周りの物質は何からできているかを突きつめていくと、最終的には素粒子にぶつかります。現在も刻一刻と広がり続けている宇宙においても、時間を遡っていくと素粒子が支配している世界に行きつきます。これまで、宇宙の謎を解明する研究は巨視的なスケールを中心に進められてきましたが、宇宙は何からできているのか?という微視的なスケールで答えを探したとき、素粒子物理学の知見は必要になってきます。また、現在の素粒子の標準理論といわれるものでも、宇宙全体の5%しか説明することができず、宇宙物理学の知見を必要としています。素粒子物理学と宇宙物理学の双方が手を組むことで、宇宙の謎を解く、新たなヒントが得られるかもしれません。
東邦大学理学部 物理学科東邦大学理学部 物理学科

ブラックホールの謎の解明に挑戦したい。宇宙の始まりを知りたい。そういった夢を実現させる土台となるのが「物理学」の学びです。大学の物理学は、高校よりも一歩進んで基礎を固め、そこからより専門的な領域へと足を踏み入れていきます。東邦大学は、宇宙物理学や素粒子物理学を本格的に研究できる施設・設備が整い、そして第一線で活躍する教授陣が揃った数少ない大学の一つです。そのほかにも、物質の性質を微視的観点から研究する物性物理、未来のテクノロジー開発に貢献する応用物理の3つの領域を網羅しており、あなたの知的探究心を満たしてくれることでしょう。

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