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豊かな海や空気を残すために
未来をつなぐテクノロジー

豊かな海や空気を残すために未来をつなぐテクノロジー

各地での異常気象の頻発など、現在の地球では環境の変動が懸念されています。その主原因とされるのが、私たち人間の社会活動がもたらしてきた、様々な影響です。特に地球温暖化につながるCO2などの温暖化ガスの排出過多や、開発による広大な森林の消失、深刻さを深める海洋汚染など、環境の変動に直結する人間社会由来の活動について、全面的な見直しを図るため、SDGsをはじめとする多様なムーブメントが国際社会で巻き起こっています。地球の環境変化をミニマムに抑え、持続可能な社会を実現するために必要な力は多岐にわたりますが、ここではそのなかでも大いに活躍が見込まれている工学分野に注目してみましょう。

新たな技術と発想で、100年先まで自然を守る

自然と科学の力を融合! 再生可能エネルギー

日本の温室効果ガス(GHG)排出量

今、世界中で取り組まれているのが、CO2などの温室効果ガスを減らしカーボンニュートラルを実現することです。カーボンニュートラルとは、排出量から吸収量と除去量を差し引いて合計をゼロにすること。そのためにはCO₂排出量を劇的に減らす一方、除去や吸収を高める双方の取り組みが不可欠です。

日本における温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)の排出量のうち85%が、エネルギー起源で排出されるCO2です(図1)。現在、日本のエネルギーはその85.5%を石炭・石油・天然ガスなどの化石燃料に依存しているため、エネルギー起源のCO₂を減らすには、化石燃料への依存を減らし、その代わりとなる再生可能エネルギーを増大させる必要があります。

現在実用化されている主な再生可能エネルギーは、太陽光発電・風力発電・バイオマス発電・水力発電・地熱発電などです。そのなかでも期待されているのが、太陽光発電ですが、近年、その増加率には陰りが見え始めています。その理由の一つが太陽光発電の持つ不安定さです。太陽の出ている日中しか発電できないこと、さらに日照量に発電量が左右され、発電した電気は貯蔵が難しいため、安定供給が課題とされてきました。

しかし安定供給に向けた新たな取り組みも始まっています。一つは太陽光で発電した電気を蓄える大規模なリチウムイオン蓄電施設を導入すること。また太陽光発電所に水素製造プラントを併設し、化石燃料に変わるゼロエミッションエネルギーとして有望視されている水素を製造することです(図2)。製造時にCO2排出を伴わない太陽光発電でつくるグリーン水素を作るプラントは、福島県浪江町に設置された「福島水素エネルギー研究フィールド」ですでに稼働が始まっています。

再生可能エネルギー由来の電力の貯蔵・利用の流れ

また、火山大国の日本では地熱発電も有力な再生可能エネルギーとされ、米国やインドネシアに次いで世界3位の地熱資源のポテンシャルがあり、日本の発電量の1割をまかなえる潜在能力があるとされます。また、日本は世界最高水準の地熱発電技術を有しており、地熱発電用タービンは世界のシェア6割を占めるなど、世界をリードする立場にいます。

日本の発電量の中で再生可能エネルギーが占める割合はまだ大きくありませんが、ここから発展させていくことができる力は十分に持っているといえるでしょう。

CO2もリサイクルで有効活用が可能に!

人工光合成によるオレフィンの製造

カーボンニュートラルを達成するのにもう一つ欠かせないのが、多量のCO2を排出する火力発電や製鉄プラントで排気ガスからCO2を分離回収して除去する手段です。その技術はすでに確立されており、最新の火力発電所や製鉄プラントでは、CO2の排出を極力抑える設計が施されています。問題は、分離回収したCO2をどのように処理するか、です。

分離したCO2の回収・貯留(CCS=Carbon dioxide Capture and Storage)方法として、多く使われているのが地中貯留です。堅い岩盤の下にある地下深くの帯水層へ溶け込ませたり、天然ガスやシェールオイルの油田で、組み上げたあとの空間にCO2を送り込んで貯留する方法です。しかし近年では、分離回収したCO2を積極的に廃品利用する方法も実用化に向けて研究されています。

例えば、コンクリートの材料となるセメントは石灰石を原料として作られますが、その製造過程でCO2を排出してしまいます。大手ゼネコンの大成建設では、CO2とカルシウムからコンクリートを作る技術を確立しました。分離回収されたCO2の有効利用になるだけでなく、セメント製造過程で出るCO2も削減できる技術です。

同じように一石二鳥の効果を狙えるのが、藻類を使って製造するバイオマス燃料です。ミドリムシの仲間の藻類には、光合成でCO2を取り込み、オイルを作ってため込むものがあります。これを精製するのがバイオマス燃料。日本のバイオベンチャーのユーグレナ社が、すでにバイオディーゼルやバイオジェット燃料を製造し供給を始めています。現在、このバイオマス燃料製造の高効率化の研究が進められており、製造コストの低減や分離貯蔵したCO2の有効利用が将来的に見込まれます。

このほか、光触媒を使った人工光合成でCO2と水からプラスチックの原料(オレフィン)を製造する方法(図3)や、最先端の素材として注目を集めるカーボンナノチューブを、火力発電所から分離回収したCO2から合成する構想などもあります。脱炭素を行い同時に素材への積極転用を兼ねる、カーボンリサイクルのアイデアが動き出しているのです。

新技術で海洋プラスチックを減らせる可能性が!

海洋プラスチックと魚の量の比較

石油から作る化学合成樹脂・プラスチックは、20世紀以降の私たちの生活に欠かせないものとなりました。しかしプラスチック由来の海洋汚染が、海洋プラスチック問題やマイクロプラスチック問題として世界的な問題となっています。マイクロプラスチックとは、プラスチック製品が劣化して砕け、5㎜以下の粒子となってしまったもの。私たちの生活圏から出た廃棄プラスチックは、川を通して海洋に流れ込み、砕けてマイクロプラスチック化し、自然環境下では分解せず、細かい粒子のまま漂い、海底に沈殿して堆積してしまいます。やがて食物連鎖の末に生物の体に取り込まれ、それによる生体への健康被害や生態系への影響が懸念されているのです。海に流れ込むプラスチックの量は増加の一途とたどっており、現在のままプラスチックの生産と海への流入が続けば、2050年には海洋プラスチックごみの量が海にいる魚の量を超えてしまうという研究データもあります(図4)。

その対策として始まったのが、廃棄ゴミとなりやすいプラスチックの削減です。日本では2020年7月からレジ袋の有料化など、身近なプラスチックの削減がムーブメントになっています。

その一方で、マイクロプラスチック化しにくい代用プラスチックの開発も行われています。微生物により分解する生分解性プラスチックや、石灰石を主原料として劣化に強いシート状の新素材の開発など、プラスチックを代替する素材の実用化が進められています。さらに化粧品などに含まれるスクラブと呼ばれる粒子は、そのままマイクロプラスチック化することが問題視されていますが、こちらも植物由来のセルロースを材料にするなど、生分解性を持つ代替素材が模索されています。

また、ペットボトルなどに使われるPET(ポリエチレンテレフタラート)は、微生物による分解が起きないとされていました。しかし大阪・堺市のPETゴミが埋められた処分場から、PETを分解する微生物が発見され、2016年に発表されて注目を集めています。「イデオネラ・サカイエンシス」と命名されたこの細菌の研究が進めば、地球規模の海洋汚染が進むマイクロプラスチック問題解決への糸口が見つかるかもしれません。

日本大学 生産工学部 環境安全工学科日本大学 生産工学部 環境安全工学科

地球の豊かな自然を次の世代に残していきたいという想いは、人々の意識を変化させ、SDGsの認知の広がりと共に、問題解決に向けて社会の仕組みとインフラ構造の変革の潮流を生み出しました。自然と共存した社会の実現のためには、環境問題に直結した工学分野の技術革新が欠かせません。日本大学生産工学部環境安全工学科は、工学と環境の融合を目標に掲げ、複合的な工学知見での地球環境問題解決をテーマとする大学の一つです。

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