- 2023年06月12日
- (2023Guideline4・5月号より)
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スクール・ポリシーは学校の進むべき方向性を示す
教員一人ひとりが自分事として受け止め推進すべき
- この記事のポイント!
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- 1
- 高校におけるスクール・ポリシーは、大学の3つの方針とほぼ同じ
- 2
- 教員によって解釈が多様になる文言や、アセスメントできない内容は見直す
- 3
- 全教員が当事者となるよう、皆で議論し校内に徐々に広げることが大切
スクール・ポリシーは大学の3つの方針に相当
これまでも高校は教育課程を編成し、段階的・体系的なカリキュラムを作って学校運営を行ってきましたが、なぜ今、スクール・ミッションに基づく、教育課程の編成や実施に関する方針などのスクール・ポリシーが求められているのでしょうか。それは言うまでもなく、資質・能力の育成のためです。そのために必要な知識・技能は、教科を学ぶ上で必要な特定の技能ではありません。もう1つ上の段階の課題に取り組むための汎用的な資質・能力の育成がめざされています。
この資質・能力の育成が教育機関の大きな役割となったことで、大学では3つの方針に基づく大学教育の充実が求められるようになりました。大学における3つの方針は、①卒業認定・学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー:DP)、②教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー:CP)、③入学者受入れの方針(アドミッション・ポリシー:AP)です。この3つのポリシーをベースにした教育目標実現のための大学運営が教学マネジメントです。高校では2022年度から新学習指導要領が施行され、いわば高校版の教学マネジメント体制づくりが進められています。
高校のスクール・ポリシーである①育成を目指す資質・能力に関する方針、②教育課程の編成及び実施に関する方針、③入学者の受入れに関する方針は、大学の3つの方針にほぼ対応するものと考えてよいでしょう。大学の3つの方針はスクール・ポリシーを考える上での参考になります。たとえば、大学の卒業認定・学位授与の方針は、多くの場合、次のように書かれています。
まず、「学士課程卒業にあっては教育目的に基づき以下の点に到達していることが求められる」とあり、その後に具体的な知識・技能、汎用的技能に相当する内容が複数記載されます。その1つ目に記載されるのは、一般的に知識・技能に関することで、カリキュラムの表に出てくるものです。そして、2つ目以降に汎用的技能に相当する能力、たとえば、問題発見・解決力、コミュニケーション力など、各学位プログラムに共通して必要な汎用的技能などが列挙されています。教育課程編成・実施の方針は、これらを基準点としてさらにブレイクダウンしていき、4年間の学士課程の各授業科目を編成するのが基本です。そして、どの授業科目が資質・能力の育成に寄与していくかをカリキュラムマップやコースツリーと呼ばれるものに示します。
建学の精神、学校教育目標等との関係を整理する
高校の場合も、スクール・ミッションつまり学校の社会的役割に応じた各高校の学校教育目標があり、育てたい資質・能力があります。それをカリキュラム、個々の授業へとブレイクダウンしていきます<図表1>。なお、多くの場合、学校には建学の理念や校是があります。この点をどう考えるかについて、桐蔭学園の例を通して見ていきます。
桐蔭学園には建学の精神があります。ただ、学園が設立されたのは1964年ですので、その時代背景が色濃く反映されており、そのままの言葉ではスクール・ポリシーには適しません。現代版として翻訳することが必要です。そこで私たちは建学の精神の現代版として、「社会に生きる主体として自ら考え判断し行動できる資質・能力の育成」を学校の大きな教育目標にしています。
次に課題となるのは、その資質・能力を具体的にどのような力として育てるかです。桐蔭学園では、「自ら考え判断し行動できる資質・能力」を、大きく4つに分けて提示しています<図表2>。1つ目は「他者を承認した上で、多様な人たちと協働できる」です。他者との関わりは現代的な課題です。現代社会では個人の力を基礎としながらも、集団の中でどれぐらい自分の力を発揮できるかが重要です。私たちはこれを重要視して最初に掲げています。2つ目は「学び続け問い続けながら、探究することができる」です。これは建学の精神の「学問に徹し、求学の精神の持ち主たれ」に依拠しています。時代を超えて大事なことだと思うものです。3つ目にはキャリア教育の意味合いがあります。このように各学校が育成をめざす資質・能力を具体的な言葉で表します。


- 溝上先生ご提供資料
個々の授業で「何を」「どのように」学ぶか
スクール・ポリシーで育てたい資質・能力を見ると、「アクティブラーニング」「探究」「キャリア教育」というキーワードが見えてきます。これは桐蔭学園が「新しい進学校のカタチ」として掲げる3つの柱とも一致しています。こうした育てたい資質・能力につながる学校教育活動については、私も校長も、式典や学校説明会などで話をする際には必ず触れます。そのため、入学書類などの志望動機を見ると、皆がこのキーワードを書いてきます。生徒は、桐蔭学園の教育内容をわかった上で受験して入学してくるということです。育てたい資質・能力を明示することが、アドミッション・ポリシーにもつながっているのです。
この資質・能力を育てるためには、カリキュラム化して学校教育目標を個々の授業につなげていくことが必要です。その際にポイントとなるのは、「何を学ぶか」と「どのように学ぶか」です。「何を学ぶか」はもちろん学力の3要素です。進学校ですので、大学受験にも対応していることが大切です。「どのように学ぶか」は言うまでもなく、アクティブラーニング型授業です。個-協働-個の学習サイクルとリフレクションで学びを深めます。
また、桐蔭学園では探究活動を「未来への扉」と呼んで、ゼミ活動や論文執筆に取り組みます。キャリア教育は大学進学だけではなく、仕事・社会へのトランジションにおいて役に立つプログラムにしています。これら「新しい進学校のカタチ」の3つの柱では、ペアワーク・グループワークやプレゼンテーションなど、さまざまな外化の機会を取り入れています。人の話を聞くだけではなく、グループワークや発表などを通じて自分の理解や考えを外に出しながら、他者や集団の中で力を発揮する場面を入れています。
このように、育てたい資質・能力がカリキュラムのどこに入っているかが明示されていなければ、アセスメントができません。アセスメントされて、結果がフィードバックされ、教育現場で見直しが行われることが、カリキュラム・マネジメントにつながります。
教科学力等に加えて資質・能力もアセスメントする
教育活動をどのようにアセスメントするかは重要です。そのためのツールはさまざまです。校内成績に加え、模擬試験は全国的な位置づけを確認するために必要です。この他、桐蔭学園では英語の外部試験も活用しています。英語科から報告されたものによれば、外部試験や多読に取り組み、英語の成績が伸びている生徒は、国語や数学など他教科の成績も向上しているという結果が出ています。
こうしたデータやエビデンス(根拠)によって教育活動をアセスメントしていきます。探究プログラムはテストの点数のような成績はありませんが、生徒の成果物や発表内容で評定をつけますので、これらもアセスメントの対象となります。また、桐蔭学園では生徒へのアンケートをいくつも実施しています。アンケート結果は生徒の自己評価ですので、データとしての信頼性の点で心配があるかもしれませんが、むしろ生徒がどう思っているのかが大事なことだと考えて活用しています。これらの個々のデータを活用するだけでも十分にカリキュラム・マネジメントになりますが、最終的にはデータをマージ(統合)して分析するところまでいくことが必要だと考えています<図表3>。
桐蔭学園では資質・能力をアセスメントするツールとして河合塾の「学びみらいPASS」(注)を活用していますが、その結果と校内成績、生徒のアンケートデータなどをマージすると、生徒のリテラシーやコンピテンシーと成績との関係など、さまざまなことが見えてきます。私が進めている高校版IR(Institutional Research)プロジェクトでは分析ソフトを使わず、Excelでも可能な手法でデータをマージして分析するようにしています。Excelでクロス集計しただけでもさまざまなことがわかります。
データをマージするというのは、生徒の経験を一体にすることです。教科の学習などを通して、生徒が全体としてどのような学びや経験をしているのかをデータが表しているといってもよいでしょう。それを育てたい資質・能力に照らし合わせ、不足しているところがあれば改善するというフローになります。また、全国的な模擬試験に相当するような資質・能力のアセスメントデータは持っておくとよいでしょう。ほとんどの高校は模擬試験を受けていますが、資質・能力の全国的な位置づけを見るアセスメントへの関心はあまり高くないように思います。全国的な位置づけを見ることで、生徒の良いところを伸ばし、弱いところを指導に生かすことができます。

- 溝上先生ご提供資料
各教員の共通理解とアセスメントの観点で見直す
スクール・ポリシーは策定後、必要に応じて見直すことが不可欠です。基本的に見直すところは、桐蔭学園の例でいえば、「育成を目指す資質・能力に関する方針」として掲げた4項目になります<図表2>。使われている言葉はこのままでよいのか、各先生が行う授業のどの部分とつながるのか、といった観点で見直します。
大学のカリキュラムマップやコースツリーのように、各先生の授業が育てたい資質・能力のどこにつながっているのか、どのような授業や活動を行えば育てたい資質・能力が身につくのかといったことを、グループワークで議論することが肝要です。スクール・ポリシーを、校長や管理職だけでなく現場の先生方と共有するためには、掲げた育てたい資質・能力を皆で見ながら、自分の教科や自分の授業で実現できているのか、あるいはもっと別の言葉で表記する方が適切なのではないか、などを議論します。言葉を修正する場合は、合意を取りながら修正します。この時、人によって解釈が多様になる言葉には注意が必要です。たとえば“グローバル”などです。この場合、何をもってグローバルといえるのかということについても、話し合って共通理解を持つ必要があります。
次に課題となるのは、どのような指標で評価をするのかというアセスメントの問題です。たとえば、「他者を承認」とはどのように評価すればよいのか、「多様な人たちと協働」の「多様」はどのような指標で測るのか、などです。桐蔭学園の場合、資質・能力のおおよそは「学びみらいPASS」でデータが取れますが、独自で見たい指標があれば生徒へのアンケートなどで補います。この時、どのようなアンケートで評価をするのかについても合意しておくことが必要です。育てたい資質・能力には、アセスメントできないことを書いてはいけないのです。抽象的なスローガンではアセスメントができませんし、どのように指導すればよいかが明確化できません。
こうした見直しのプロセスには非常に時間がかかります。しかし、どのような指標で評価・測定すればよいか、どのような教育活動を通じて育成することができるのか、などを皆で議論して決めていくことで、共通理解が学校全体に少しずつ広がり、全教員が当事者になれるような形ができていきます。スクール・ポリシーの最大の課題である、全教員への周知や普及には欠かせないプロセスだと思います。
スクール・ポリシーの推進はガバナンスの問題
高校の場合、大学とは異なり、学習指導要領という標準的なカリキュラムがあります。その中でミッションの再定義を行って、独自のスクール・ポリシーで特色を明確化するというのは非常に高度なことが求められていると思います。だからこそ、スクール・ポリシーを校内に浸透させていくためには、校長や管理職の役割が大きいのです。
大学では数年前から、学長のリーダーシップによる大学ガバナンス改革が進められています。高校におけるスクール・ポリシーもまさに同じくガバナンスの問題だと思います。スクール・ポリシーを現場の先生方に伝えるのは誰なのか、取り組みに加わらない先生がいた時に参加を呼びかけるのは誰なのか、これらはすべてガバナンスの問題です。
そのため、スクール・ポリシーを策定したり、策定したスクール・ポリシーを見直したりする時は、実際の作業は教務関係の委員会などに任せる形でよいですが、最後は校長が自分事として受け止め、学校として進めていくという意識とともに、推進するための体制づくりが必要なのです。
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