活用事例No.11宮城大学
J-Bridge Systemの導入により入試をブラッシュアップ 受験生のミスマッチを防ぐ
公立大学法人宮城大学
食産業学群/大学院食産業学研究科
アドミッションセンター・センター長
笠原 紳 教授
- 所属及び役職等はインタビュー当時(2026年度入試)のものです。
総合型選抜導入の経緯と狙い
本学への入学希望者を増やしたい
高校での総合的な探究の時間必修化に先駆けて総合型選抜を開始
総合的な探究の時間で示された取り組む姿勢、大学で学びたい気持ち等を評価
本学では長い間、入学者選抜については学校推薦枠が一部あったものの、一般入試での入学者が圧倒的に多い状態が続いていました。それを2017年度入学の選抜で総合型選抜(導入当時はAO入試)を導入し、大きく変えました。近いうちに高校で総合的な探究の時間が必修化されるという情報も得ていたので、総合型選抜導入にあたっては従来型の一般選抜とは異なる視点で受験生の資質・能力を評価しなければならないと考えました。
本学は小規模な大学なので、受験生数のわずかな増減が競争倍率に大きく影響してきます。だからこそ、しっかりと受験生の資質・能力を評価する総合型選抜をおこなうことで、本学への入学希望者を増やしたいと考えました。さらに将来、少子化が進んで一般選抜の選抜機能が現在の様には維持されなくなった場合に対応できるような選抜方法を準備しておかなくてはならず、そこも展望に入れた入試にしたいとも考えました。このため総合型選抜では1点刻みで教科学力を見ていくことよりも、受験生の総合的な探究の時間への取り組みの姿勢や本学で学びたいという気持ち、大学とのマッチング、入学してからの学修計画等についての評価の比率を高めることにしました。
そして総合型選抜は人物の総合評価をする部分も重要になるので、調査書や受験生が用意する自己申告書等の出願書類についても、そこから読み取れることが多くあります。宮城県は東日本大震災も経験しましたし、コロナ禍もありましたので、例えば部活をはじめとする学校内の活動や学校内外のボランティア活動等についても、広く評価できる仕組みにしています。
J-Bridge Systemの活用
複数キャンパスでの効率的・合理的な運用
2キャンパスであるため、本部キャンパスに缶詰めになって評価する負荷が大きかった
総合型選抜には労力が必要 運用の負荷軽減のためにJ-Bridge Systemを導入
本学で総合型選抜と学校推薦型選抜の評価にJ-Bridge Systemを導入したのは、2023年です。これらの入試にかかる労力は大変なものがありました。受験生の提出物を、評価のために紙で複数準備することの大変さは言うまでもありません。加えて本学はキャンパスが2つに分かれていて、20キロほど離れています。J-Bridge System導入前の入試の採点では、扱う情報の機密性の高さから関連書類を持ち運ぶことを制限していたため、指定された部屋に、評価者が缶詰になって採点する必要がありました。こうしたことから、総合型選抜の内容を充実させることだけでなく、入試の運用にも相当の労力と手間が必要とされました。そこで、システム化を図ることで運用面の労力と手間を軽減しようと、J-Bridge Systemを導入することにしました。
本学には3学群6学類があり、現在は、入学者のうちの6割が一般選抜で、残りの4割が総合型選抜と学校推薦型選抜での入学となっています。J-Bridge Systemは、この4割に当たる総合型選抜と学校推薦型選抜で必要な出願書類の提出と評価に使われています。
総合型選抜の概要
第1次・第2次選考では、レクチャー、レポート、グループ討論、面接等を実施
調査書、J-Bridge Systemで提出された自己申告書とともに総合的人物評価を実施
本学の総合型選抜では、まず自己申告書をJ-Bridge Systemを使って提出してもらい、ルーブリックを用いてその評価をおこなっています。
総合型選抜を始めてからこれまでに、第1次選考の選抜方法や第2次選考における口頭試問の形式など、変更を加えた部分もありましたが、現在の第1次選考ではまず50分のレクチャーを受講し、直後にそれに関するレポートを作成してもらいます。レクチャーのテーマはすべての学類で共通なため、一般性のあるものを選んでいます。レクチャーでは、テーマに関連する様々な課題と、それらを裏付けるグラフ、表、文章、写真等を示します。受験生には気分で考えを述べるのではなく、レクチャーで示される裏付け資料や、解説文章での分析と結論などを踏まえて、自分の考えをまとめて論述することが求められます。しっかりと根拠を持って、客観性を持った説明ができるかが、レクチャーレポートの評価のポイントです。このレクチャーレポートと、高校の調査書、そして自己申告書等の出願書類を総合的に評価して、第1次選考がおこなわれ、人数を絞り込みます。
第2次選考でも、50分のレクチャーを受講してもらいます。レクチャーのテーマは第1次選考のものと関連性があり、発展させたものです。レクチャー後にグループ討論をしてもらい、その結果自分の意見が変わったのか、それとも深まったのかを自己分析して、ふりかえりレポートに書いてもらいます。さらに口頭試問を含む面接を実施しますが、面接員には事前に自己申告書等を読み込んで、面接でのやりとりに備えてもらいます。最終的には、このグループ討論とふりかえりレポート、口頭試問を含む面接に加えて調査書と自己申告書等の提出書類の内容で評価されます。
総合型選抜の導入の高校への影響
総合的な探究の時間では、高校生が真剣に取り組む姿勢に変化
高校での総合的な探究の時間と総合型選抜のプロセスをシンクロナイズ
受験につながると知って高校生の総合的な探究の時間への取り組みが真剣化
本学の総合型選抜は、受験生の高校における総合的な探究の時間への取り組みを通じて培った資質・能力を評価しようという狙いがあります。
私たちが分析したところでは、高校での総合的な探究の時間は、
(1)課題の把握・興味の整理
(2)情報収集・研究計画・仮説
(3)調査・実験・実証
(4)データ集計・レポート作成 、というプロセスで進められているようです。
本学の総合型選抜は、このプロセスを前提に設計しています。つまり、
(1)レクチャー聴講
(2)レクチャーレポート
(3)グループワーク
(4)ふりかえりレポート 、というプロセスにしています。
そして、本学のこうした総合型選抜が高校や高校生に伝わっておこなった結果、初期の頃にはこんな反応が多くありました。当時は、総合的な探究の時間は必修ではなく、生徒たちも受験科目のようには考えていなかったため、半分休憩時間のような気持ちで取り組んでいたのが、本学等の総合型選抜の動きを知って真剣に取り組むようになったというのです。これは、総合型選抜実施の1つの成果だと思います。
J-Bridge Systemを導入しての感想
大学、受験生の双方に大きなメリット
本部キャンパスに缶詰になっての評価が解消され、場所と時間の制限から解放
将来の入試戦略立案のために過去の受験資料等を閲覧・分析しやすくなった
J-Bridge System導入のメリットとして、1つめは、2つのキャンパスに分かれていても自分のいるキャンパスで評価できるようになり、場所の制限から解放されたことです。また、1日のうちで評価担当者にとって都合の良い時間に評価すればよく、時間の制限からも解放されて、評価担当者からは大変好評です。
2つめは情報収集が容易になったことです。採点・集計が簡単にできるようになったのはもちろんですが、本学では将来の入試戦略を立案するために複数年分の入試結果を概観して分析もしています。かつては紙でしたので、過去の紙資料を引っ張り出してきていましたが、J-Bridge Systemはすぐに過去データが閲覧できます。
3つめは自己申告書を紙に書くのではなく、PCやスマホに入力することで作成できる、受験生にとってのメリットです。J-Bridge Systemは文字数が自動でカウントされるので、論述することに集中できます。紙の場合は、途中まで書いて文字数を自分で数え、あと何文字程度書く必要があるのかを判断していたはずです。そうすると、書くことに集中できず、時間が限られている受験生には負担になります。それが解消したことは、受験生にとっては大きいと思います。
今後の展開
一般入試における多面的評価とミスマッチの解消、IR分析の精度向上
入試、大学での学び、進路をつなげたIR分析での入試情報の精度が向上
ミスマッチを防ぐために、今後、一般選抜でも多面的評価の導入の必要性が高まる
現在、本学はIRの専門部局を立ち上げています。私たちアドミッションセンターでは、この部局と共同で分析を進めています。高校時代の情報を含む入試段階から、入学後の学修の方向性、そして卒業後の進路が、どのようにつながっているのか、どういう傾向があるのかという分析です。その点で、J-Bridge Systemになってから情報提供がやりやすくなり、また情報の質も高まったと感じています。このIRの精度を高めていくことが、今後は必要になると思います。
今後も本学の入試はさらにブラッシュアップさせていきますが、間違いなく言えることは、その受験生の狙っている方向性や、受験しようとしている大学への親和性が選抜において重要な意味を持ち、ミスマッチを防ぐことが重要な課題になってくるだろうということです。そうなると、一般選抜を含めて多面的評価が求められるようになるでしょう。そうした流れは、今後一層、強まってくると思います。
- 関連リンク
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宮城大学(公式サイト)
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J-Bridge System導入を含む総合型入試の取り組みは、評価負荷を軽減、入試の多面的評価と効率化に加え、高校の探究活動での高校生の真剣な姿勢への変化にもつながっています。
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宮城大学(公式サイト)
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- J-Bridge System(JBS)
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河合塾によるJ-Bridge System(JBS)のご案内。Webを通じて、受験生の多様な資質や主体性を示す情報をデータとして獲得し、有効かつ効率的な評価の実現を支援するシステムに関する情報をお届けします。
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- 大学入学者選抜改革セミナー
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