工学の力で世界を救え!
グリーンテクノロジーで未来へつなぐ

2024年6月28日掲載

工学の力で世界を救え!

動物が海や川に流れ出たプラスチックごみをエサと間違って食べると生態系が乱され、漁獲量が減るなどの影響が出ます。こうしたごみの中には、網やロープなど、漁業で使用される道具も含まれます。そこで、道具として使っているときは丈夫でありながら、海に流れ出てしまったときなどは海の中で自然に分解されるプラスチックを開発しようと、大学の研究者と企業、漁協が協働して研究を進めています。海中で分解されるだけでなく、漁具としての耐久性も追究するプラスチックは新しい視点です。漁業も海洋ゴミも世界的な課題であり、この研究が成功すれば、日本の国際的な競争力強化にもつながると期待されています。これからも私たちが安全で健康的な生活を続けていくためには、水、海洋、大気など多岐に渡る環境問題の解決が急務です。ここでは、いま注目されているグリーンテクノロジーによる環境問題解決の取り組みを紹介します。

持続可能な社会をつくるグリーンテクノロジー

地球温暖化によって世界中で異常気象や大洪水が起きている

異常気象や大洪水

2024年4月、ロシア南部では、気温の上昇に伴う大量の雪解け水でダムが決壊し、大規模な洪水が発生。隣接するカザフスタンと合わせて10万人以上が避難を強いられました。また、砂漠地帯のアラブ首長国連邦でも記録的な大雨が降り、ドバイ国際空港で飛行機の欠航や遅れ、市内の幹線道路の浸水などの被害が出ました。
地球温暖化による気象変動の影響は大きくなる一方で、日本でも数多くの被害が発生しています。昨年はハワイやカナダで山火事が多数発生しましたが、今年は5月、山形の南陽市で大規模な山火事が発生し、その焼失面積は束京ドーム約30個分を超えています。また、気温や海水温の上昇に伴い、台風が強大化し、季節を問わず、線状降水帯など大雨による被害も増えています。
地球温暖化は、石炭や石油などの化石燃料により発生する温室効果ガスの増加が原因とされます。世界のエネルギー源の約8割が化石エネルギーであり、地球環境問題はエネルギー問題とも密接に結びついています。また、プラスチックごみや生活排水による海洋汚染、水質汚染、大気汚染、森林破壊、砂漠化など、地球規模で様々な環境問題が起きています。地球環境問題は以前から解決が求められていながら、年々深刻さを増す、古くて新しい問題です。

環境問題の解決が迫られる中 注目を集めるグリーンテクノロジー

地球環境問題の解決はもはや待ったなしの状況になっています。それを示すように、2015年に国連で採択され、2030年までの達成をめざす「SDGs(持続可能な開発目標)」でも、環境問題への対応は特に重要視されています。そこで注目されているのが「グリーンテクノロジー(グリーンテック)」です。
グリーンテクノロジーとは、環境にやさしい技術のことで、最先端テクノロジーを駆使して環境問題を解決、あるいは緩和し、持続可能な社会の実現をめざすもの。その技術はエネルギー、交通、建築など、多岐に渡ります。

電気自動車・燃料電池自動車

電気自動車・燃料電池自動車

従来のガソリン車は二酸化炭素などの排気ガスが大気汚染の原因となり、環境問題に影響を与えます。そこで電気の力のみで走行する電気自動車(EV)が普及してきています。2023年の日本のEV車の登録台数(乗車用)は、対前年比12,399台増の43,991台(一般社団法人日本自動車販売協会連合会調べ)でした。EVはガソリン車と比べるとまだ少なく、その大きな要因としてバッテリーの寿命や航続距離、充電スタンドなどのインフラ整備が挙げられ、さらなる技術開発が求められています。
環境にやさしい自動車としては、燃料電池自動車(FCV)の開発も進んでいます。水素と空気中の酸素を反応させて電気を起こす水素燃料電池自動車はCO2を排出しません。すでにトヨタのMiraiやホンダの「CLARITY FUEL CELL」などが市販されており、ホンダは技術を応用して商用トラックの開発や、工業や商業施設に設置される発電機のクリーン化も進めています。

再生可能エネルギー ―洋上発電所

再生可能エネルギー ―洋上発電所

火力発電や原子力発電に代わって、温室効果ガスを排出しないエネルギー源として太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーの研究開発や社会実装実験が各地で行われています。中にはすでに実用化が始まっているものもあります。
茨城県の鹿島臨海工業地帯では、鹿島港洋上風力発電の建設が始まろうとしています。洋上風力発電は、洋上の方が陸上に比べて風の状況が安定していること、陸上よりも多い発電電力量が見込めること、騒音の問題もクリアしやすいことなどの利点があります。約2kmの沖合に風車19基を設置し、約7万世帯分の年間消費量に相当する発電容量を持つ発電所の建設には、陸での送電ケーブル設置と違い、海底ケーブルならではの難しさや、複雑な風の動きへの対応など、様々な課題があるものの、着工をめざした調査・設計が進められています。
環境にやさしく、より効率的で有用な発電を実現する技術開発は、これからも大いに注目される分野です。

脱プラスチック素材

2020年7月からレジ袋が有料化されました。環境の視点から見ると、悪者扱いされがちなプラスチックですが、便利であるのも確かで、生分解性プラスチックなど、環境にやさしいプラスチックの研究が行われています。千葉大学、東京工業大学、東京大学の研究チームは、植物を原料としたプラスチックをアンモニア水で分解し、肥料となる尿素に変換するリサイクルシステムを開発。廃棄プラスチックの分解生成物には植物の生長を促進する肥料としての効果があることも確かめられました。
環境配慮型の素材開発を行う株式会社TBMが開発したLIMEXは、石灰石を主原料とする新素材です。従来の石油由来のプラスチックと比べると、温室効果ガスの排出量を抑えられるLIMEXは、印刷物、食品容器、文具、玩具、生活雑貨、包装などのプラスチックや紙製品の代替として加工できます。リサイクルも可能で、TBMは回収した使用済のLIMEXと廃プラスチックを自動選別し、再生するリサイクルプラントも運営しています。

工学の力で環境保全と経済の進展の両立に貢献できる人材が求められている

現在、世界各国が温室効果ガスの削減に取り組んでおり、日本も2050年までにカーボンニュートラルを実現させるためのグリーン成長戦略を策定しています。これは環境を保護しながら産業構造を変革させ、社会経済を成長させようというもの。特に成長が期待される14の重要分野について目標と具体的な見通しを示しています。
例えば、半導体・情報通信分野では、次世代パワー半導体の研究開発や情報通信インフラの省エネ化などの取り組みが挙げられています。こうした目標を実現する上で不可欠となるのはテクノロジーです。技術の進展がないことには、どんな高い目標も絵に描いた餅で終わってしまいます。環境問題の解決は急務であリ、環境の視点は分野を問わず、ものづくりに必要不可欠です。
米市場調査企業Allied Market Researchの報告書によれば、世界のグリーンテクノロジーと持続可能性の市場規模は200億ドルに迫る勢いで、今後も20%程度のペースで成長すると予測されています。持続可能な社会づくりのため、今後、環境問題を工学の力で解決できる人材がますます求められるのは間違いありません。


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