キミは何のために何を学ぶ?
2022年12月16日掲載

人間の感情を認識するAIや自動運転車、アレクサなど、あらゆるモノがインターネットとつながり、Twitterなどのソーシャルメディアが活用される時代。ITが進化する一方で、まだまだ社会には複雑な問題があふれています。技術は実際の社会で活用されることにより、本当に価値あるものとなります。単に新しい技術をつくり出すだけでなく、文系・理系、自分の興味だけにとらわれず、社会に役立てるにはどうしたらいいかを多角的な視点で考える。そんな経験を大学で積むことができれば、きっと自分が描く、未来を創るチカラにつながります。
会社をつくりたい、ドローンやAIロボットを学びたい、地元を盛り上げたい一
自分が“何のために何を学びたい”かを考えてみるのもいいかもしれません。
Q1 私たちが生きていく、これからの時代って?


Society 5.0の到来を未来に見据えて、少し前までは夢物語だったことが現実となってきています。
たとえば、今までは人の手による作業が多く、経験や勘がものをいう部分が多かった農業の分野でも、ドローンやセンシング技術、画像解析技術を用いて効率化・省力化が図られ、農家の高齢化・後継者不足を解決するものとして大いに期待されています。
介護・医療分野でも、高齢者の話し相手になり、接し方により反応が変わるコミュニケーションロボットが活用されています。癒しだけでなく、利用者の言葉や表情の変化、バイタルサインなどを検知して小さな異変をすばやく感知できれば、子どもも高齢者ももっと安心して暮らせるようになります。
今後、こうした情報や知識を共有する動きが加速していくのは間違いありません。人を中心としたAIロボットとの共生など、技術を課題の発見・解決につなげ、あらゆる人が制約なく快適に暮らせる持続可能な社会―スマート技術による、スマート社会の時代がまもなくやってきます。
Q2 どんな研究が今、はじまっているの?
社会がかかえる問題のなかで、「交通安全」は重要な課題のひとつ。自治体や企業は交通死傷者ゼロをめざして車の安全性追求や道路環境の整備などに取り組んでいます。日産自動車は新潟大学等と連携して交通安全未来創造ラボを創設し、歩行者の服装色に関する調査や高齢ドライバーの意識調査などを行い、交通事故削減をめざしています。
実は歩行中の交通事故で死傷者が最も多いのは7才児、というデータがあります。そこで、こくみん共済coopは2019年から子どもの交通事故を減らす取り組みとして、金沢大学の藤生慎准教授と共同研究をスタートさせ、「7才の交通安全プロジェクト」を実施しています。

7才児の事故が多いのはなぜか?原因を研究!
1幼稚園の子どもたちと一緒に調査、実験を行う

- 子どもたちの目線は大人よりも低く、道路の「とまれ」標識が視界に入らない
- 「とまれ」標識の意味が理解されていない
- 子どもたちの目を引く標識をつくる
デジタル標識で子どもたちの行動は変わるか?
2ビーコン・デバイスを持った子どもたちが標識に近づくと、動物が「とまれ」と促す動画が流れる標識を開発し、小学校において第1回実証実験を実施

- 横断歩道での一時停止や左右確認の割合が60%アップ
- ビーコンを持たない児童に注意喚起する波及効果も見られた
- よりわかりやすいデジタル標識を開発する
改良されたデジタル標識の効果は?
3第1回の実験結果をもとに、モニターを大きくするなど実験機を改良して、通学路の交差点で第2回の実験を実施

- ビーコンを持った児童のほぼ全員がモニターの前で立ち止まり、左右の安全確認を行った
- このプロジェクトでは、交通安全について子どもたちへの十分な教育の場が必要という研究結果から、専門家監修のもと、クイズ形式で交通安全ルールを学べる「7才の交通安全マップ」が開発されました。実際に小学校の1年生を対象に授業を実施したところ、マップ使用の有無で「交通安全について考えることの大切さ」の理解度に30%以上の差が出ました。
- ビーコンを使った交通安全実験のしくみ
1ビーコン発信端末から接近情報を発信
2機器に接続されたスマートフォンが接近情報を受信
3ビーコン情報を処理(検知した情報がサービスに関連があるかを照合)
4モニターで標識を表示(特定のビーコンが近づくとそれに紐づくコンテンツを表示)
Q3 いまの社会で、求められているチカラとは?


7才の交通安全プロジェクトでは、観光、交通、防災を専門とする先生のほか、複数の学問分野の研究者や専門家が協働して進められました。調査・実験では各種機器を使用し、デジタル技術やデータ解析の専門家や子どもの行動・身体発達などの面では幼児教育の専門家も協働しています。子どもたちの目を引くデザインを考案するには、デザインの専門家の力も必要になってきます。
このように実際の社会の課題を解決し、社会を変革するには、多様な人との協働が求められます。自分が理系だから文系のことはわからないという姿勢では、相乗効果は望めません。他分野についても一定の知識や理解を持つことで疑問や意見が出て、それが新たな気づきやアイデアにつながります。
課題解決において技術が果たす役割は大きなものがあります。既存の技術に少しアレンジを加えることで、新たな活用法が見つかることもあるでしょう。様々な分野の人と意見を交換するなかで、こんなことができればおもしろいと創り出された技術が、思わぬ方向で生きてくることもあります。学問領域にとらわれず幅広い学問に触れ、そこで得た知見を融合させ、大学時代から様々な分野の人と意見を交換し、多角的に物事を考える体験を積むことが、未来を切り拓くチカラとなるでしょう。