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    公開日
  • 2026年04月13日
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「高校教育改革」への期待と課題 ネクストハイスクール構想が
問い直す
高校の形 ネクストハイスクール構想が問い直す高校の形

一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事 岩本悠氏

2026年4月から全国で高校授業料の無償化が始まった。公立高校の志願者減が懸念されることを背景に、2026年2月、文部科学省は公立高校支援として「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた『N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想』~」(以下、グランドデザイン)を公表。中央教育審議会委員らによる民間団体「高校教育改革を実現する会」は、公立高校の魅力向上に向けた高等学校教育改革促進基金(以下、基金)や交付金の創設を国に提言し、この動きを後押ししている。今回は、同会の呼びかけ人であり、中央教育審議会の委員でもある岩本悠氏にグランドデザインへの期待や課題、同会の取り組みについてお話を伺った。

グランドデザインの三つの特徴

このグランドデザインは、これまでの高校教育とは異なる、大きく三つの特徴があると思います<図1>

一つ目は、未来から逆算して教育を考える「バックキャスト型」の発想です。これまでの高校教育改革は、目の前の学校課題や学力向上など、現状の改善を中心に議論されることが多くありました。しかし、今回のグランドデザインでは、2040年の社会構造を見据え、その変化の中で高校教育がどうあるべきかを問い直す内容になっています。現在の課題解決だけでなく、これからの社会や就業構造の変化に向けて高校教育がどう変わるべきかを逆算して考えている点が特徴です。

二つ目は、学びの場を学校内部にとどめず、社会に開かれた教育を希求している点です。教育課程内だけでなく、地域との連携や放課後の学びなど学校外での学習機会も含めて教育をデザインすることが強調されています。企業や地域団体、大学などと連携しながら学びをつくることが求められ、従来の「教科を学校の中で教える」という枠組みを超えた教育が想定されています。

三つ目は、「高校3年間」に限定せず、その前後を含めたキャリア形成の視点です。たとえば、理系人材の育成は、高校だけで実現できるものではありません。小中学生の段階から理数分野への興味・関心を育てたり、ジェンダーバイアスや「偏差値が高くないと理系に進めない」というイメージを払拭したりすることも必要です。また、「学ぶ」と「働く」のつながりを考え、高校の出口となる大学や産業界と連携・接続していくことも求められています。このように、高校3年間だけを切り取るのではなく、その前後を含めたキャリアの流れを一体でデザインする発想が示されています。

<図1>高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた「N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想」~ の三つの特徴

※取材を基に河合塾で作成

高校教育改革に求められる継続的な投資

グランドデザインの中でも注目されているのが、各都道府県に設けられる基金です。地域ごとに高校教育改革の先導拠点となるパイロット校を設置するためのものであり、その取り組みや成果を域内全体へ広げていくことが狙いとされています。また、この基金は教育改革と連動した施設整備であればハード面への投資も可能です。古い施設・設備を抱える公立高校も少なくないため、教育改革と学校環境の改善を同時に進められる点は大きな効果が期待できます。

一方で、各都道府県で数校の拠点校を設けるだけでは、抜本的な高校教育改革にはつながらないと考えています。選ばれた学校だけが良くなり、それ以外の公立高校との間に格差が生まれる懸念もあります。そもそも今回の政策は授業料無償化の議論の中で公立高校を支援するために始まったものです。公立高校間での格差を助長するだけでは本末転倒です。拠点校はあくまで「先導的なモデル」をつくるための第一歩であり、交付金などを活用した継続的な支援の仕組みが必要だと考えます。加えて、公立高校は入試制度や教員採用などが都道府県単位の仕組みで運営されています。拠点校だけを支援しても仕組み自体が変わらなければ改革は広がりません。学校単位だけでなく高校教育全体を対象とする支援も必要だと思います。

その必要性を踏まえ、「高校教育改革を実現する会」では、高校教育への継続的な投資を国に提言しています。今回の基金は約3,000億円が計上されましたが、これは補正予算による一時的な支援で期間も限られています。教育改革を持続させるためには、年1,000億~2,000億円規模の交付金を構築する必要があります。継続的な支援があれば、今回の基金では賄えていない教職員の充実をはじめ、パイロット校以外の高校の改革など、域内の高校に普及することができます。

多様な関係者と知恵を共創する対話の場

同会ではこうした政策提言に加え、各地で「高校教育改革フォーラム」を開催しています。すでに、富山県や宮崎県、熊本県で開催しました。このフォーラムの特徴は、高校現場だけでなく、大学、産業界などの関係者が集まり、現状や課題を共有しながら意見を交わすことです。実際に開催してみると、関係者が同じ場で対話できること自体に大きな意義があると感じています。グランドデザインの背景や目的は、教育委員会の担当者以外には十分に共有されていない場合も少なくありません。立場の異なる関係者がそろうことで「こういう考え方があるのか」「地域としてこういう方向をめざせるのではないか」といった新しい視点が生まれます。すぐに何かを決める場ではありませんが、その後の実行計画づくりや基金活用を進めるうえでの重要な出発点になっています。また、各都道府県の検討内容に対して外部の視点から意見を伝える「壁打ち」も好評です。外部から「なぜそうするのか」「別の方法はないのか」と問い直すことで視野が広がります。

さらに、各地域からは「他県の取り組みを知りたい」という声も多く寄せられるため、「情報共有会」も定期的に開催しています。今回の基金は、各地域が互いに競い合う制度ではなく、条件を満たせばどの都道府県も活用できます。他地域の取り組みから学び合い、知恵を持ち寄りながら全国の高校教育を底上げしていくチャンスと言えるでしょう。だからこそ、都道府県の境を越えた学び合いや連携の機会を増やし、これからの高校教育改革を共に育てていきたいです。

高校教育改革フォーラムの様子(富山)
高校教育改革フォーラムの様子(富山)
岩本 悠(いわもと・ゆう)

岩本 悠(いわもと・ゆう)

岩本 悠(いわもと・ゆう)


プロフィール

(一財)地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事。ソニーで人材育成・社会貢献事業に携わった後、2007年より隠岐島前高校魅力化プロジェクトに従事。2017年同財団を設立。文部科学省中央教育審議会委員を務める。共著に『未来を変えた島の学校』『地域協働による高校魅力化ガイド -社会に開かれた学校をつくる』(いずれも岩波書店)などがある。

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