- 2026年06月22日
富山県教育委員会
4月から全国で私立高校の授業料無償化が始まりました。とりわけ地方では、少子化・無償化の影響で今後の高校教育の在り方がまさに今問われています。こうした中、富山県では再構築計画として「新時代とやまハイスクール構想」を公表し、これからの県立高校づくりに力を注いでいます。
本特集では、この構想に力を注ぐ富山県教育委員会に高校教育改革の方向性を探りました。
人口減少と無償化が突きつける富山県の現状
富山県の県立高校を取り巻く状況は、ここ数年で大きく変わってきています。最大の要因は、やはり人口減少です。全国的にも少子化は進んでいますが、富山県ではそれより早いペースで進んでおり、中学校卒業予定者数は今後さらに減少していく見込みです。令和20年頃には現在より3割以上減るとされ、このままでは多くの高校が小規模化してしまうことが避けられません。
また、私立高校の授業料無償化の影響も大きく、令和8年度の県立高校入試倍率は0.89倍と過去最低を更新しました。前の年に初めて1倍を下回り、さらに下がった形です。
この背景には、私立高校の無償化の影響に加え、県外の私立高校や通信制高校への進学が増えていることがあります。生徒や保護者のニーズが多様化する中で、「公立高校をどう魅力あるものにしていくか」が、これまで以上に問われています。
「再編」から「再構築」へ ハイスクール構想の狙い
こうした状況を受けて富山県が打ち出したのが、「新時代とやまハイスクール構想」です。サブタイトルに掲げられた「『こどもまんなか』の視点で考える 学びたい、学んでよかったと思える県立高校づくり」にある『こどもまんなか』とは、県知事が重視する考え方であり、「こどものためにどのような学校が望ましいか」と言う観点から構想全体をとらえるものです。
この構想の特徴は、単なる統廃合ではなく、「これからどんな教育が必要なのか」と言う視点で学校の姿を描いている点にあります。将来の姿から逆算して現在の施策を考える、いわゆるバックキャスティングの発想です。構想は令和3年度から5年にわたり、有識者会議や地域ごとのワークショップ、県民参加型の意見交換などを重ねて検討されてきました。その背景には、「こどもが減るなかでも選択肢はむしろ広げるべきではないか」と言う問題意識があります。
具体的には、県立高校34校を令和20年度までに20校程度へ再編しつつ、大・中・小規模の学校をバランスよく配置していく計画です。
なかでも注目してほしいのが、大規模校の設置です。最大12学級規模の学校を整備し、教員数の増加による科目の充実や、多様な生徒同士が刺激し合う環境づくり、生徒が関心に応じて時間割を組み立てるなど柔軟な学びをめざしています。
一方で、小規模校も一定数維持します。富山県は比較的コンパクトな地理条件にありますが、それでも通学の利便性や地域との結びつきを考えると、小規模校の存在は欠かせません。少人数だからこそ実現できるきめ細かな指導や地域に根ざした学びも重視し、「小さいから統合する」のではなく「役割に応じて残す」と言う考え方がとられています。規模の大小と言う二項対立ではなく、それぞれの機能を踏まえた全体最適をめざしています。
また、教育内容の面でも転換が図られており、普通科では基礎的な学びをベースに、STEAM教育やグローバル教育、探究的な学びを強化するなど、国が策定した「高校教育改革に関する基本方針(グランドデザイン)~2040年に向けた『N-E.X.T.(ネクスト)ハイスクール構想』~」(以下、グランドデザイン)の方向性を軸にするものとなっています。
さらに、本構想は第1期から第3期にかけて段階的に再構築を行う点も特徴です<図>。
詳細はこちらをご覧ください。
「新時代とやまハイスクール構想」実施方針(富山県Webサイト)
第1期では「未来探求ハイスクール」や「グローバルハイスクール」といった分野から着手し、県立高校の魅力向上を図ります。たとえば、「未来探求ハイスクール」では、部活動の充実も重視しており、無償化を契機に部活動を理由に県外へ進学する生徒が増えている現状への対応が背景にあります。
また、不登校経験のある生徒や外国にルーツを持つ生徒など、多様な背景を持つ生徒への対応を定時制・通信制に加えて全日制高校にも広げていく方向が示されています。こうした取り組みを通じて、生徒一人ひとりに応じた学びの実現をめざし、まずこの領域から着手する方針です。
その後、第2期・第3期では、地域との連携や産業との接続を意識した取り組みに加え、施設整備や設備投資が必要となる大規模校や専門学科の改革については、時間をかけて進めるなど、実現可能性を踏まえた工程設計がなされています。
国の改革との連動 グランドデザインとの接点
この構想は、2026年2月に文部科学省が公表したグランドデザインと、多くの点で方向性を共有しています。将来の社会や生徒像から逆算して教育の在り方を考える「バックキャスティング」の発想や、多様な学びの選択肢を整備すると言う考え方は、国・県の双方に共通するものです。
一方で、課題となるのが、国の施策と県独自の構想をどう結びつけるかです。たとえば、国が支援する「改革先導拠点」を、県全体の再編構想の中でどのように位置づけるのか、個別の取り組みをどう全体の再構築につなげていくのかは、引き続き検討が必要です。
とはいえ、国による全国で約3000億円規模の高等学校教育改革促進基金や、今後の交付金措置は、県にとって極めて大きな後押しとなるのは明白です。富山県としては、こうした財政支援を最大限に活用しながら、構想の具体化を着実に進めていく考えです。
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