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  • 2024年10月28日

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ワークショップレポート教科「情報」入試に向けた指導
 ~問題を見る目を養う~

大学入学共通テスト(以下、共通テスト)が近づき、いよいよ本格的な入試対策が始まる中、教科「情報」においても読解力・思考力を問う問題への対策・演習について関心が高まっています。そこで河合塾では、情報科教員を対象に「問題を見る目」を養うためのワークショップを2024年10月6日に開催。模試や高校での定期考査などの実践事例をふまえ、参加者の皆さまと情報の問題の見方・考え方について議論を深めました。

プログラム
  • 大学受験情報と模試分析
  • 事例紹介
  • 定期考査の役割と作問・評価
  • 模試から考える「良問」
  • ディスカッション
  • 本ページでは、前半の「大学受験情報と模試分析」「事例紹介」を中心にレポートします。

    大学受験情報と模試分析

    河合塾講師 加賀健司

    河合塾講師 加賀健司

    河合塾講師 加賀健司

    共通テストと個別試験 目的や出題傾向の違いと対策

    各大学での情報の扱いや配点など、基本的な入試情報を確認した後、受験対策を考える上で、共通テストと個別試験での出題の目的や形式の違いに着目した。 実際に、大学入試センター公表の試作問題と、大学の個別入試の出題例を比較。どちらも論理回路についての問題だが、共通テストでは現実的な状況の中で、問題解決のためにどのように情報を使うかという設定になっている一方、個別試験では論理回路の知識そのものを問う問題となっており、大学で情報学を学ぶための基礎学力の有無を測るという目的が強く出ていると分析。それぞれのテストの特徴を理解して、それに応じた対策をとる必要があるとの見解を示した。

    では、大学の個別試験問題に取り組むことは、共通テスト対策にならないのだろうか。そこで、広島市立大学の模擬問題(広島市立大学Webサイトからダウンロード)を取り上げて分析した。知識を直接的に問う空欄補充問題も多く出題されている。 プログラミングの問題では、アルゴリズムや状態遷移図の理解に重点が置かれ、プログラミングのプロセスに沿った展開となっている。さらに、論述問題では、思考のプロセスを問うている。「このような問題に取り組むことは、共通テストの前の段階、つまり授業や定期考査で使えば、総合的な力を身につけるために有効。それが、ゆくゆくは共通テストにもつながるのではないか」と、加賀先生は提案した。

    模試分析から見える課題とプログラミング問題への対応

    次に、2024年1月に実施された全統共通テスト高2模試から、春の第1回全統共通テスト模試、夏の第2回全統共通テスト模試まで、「情報Ⅰ」の受験生の成績分布の変化について報告があった。 高2模試、第1回模試では、平均点周辺に偏った得点分布だったが、夏の第2回模試では、平均点に大きな変化はなかったものの、平均点より上位の分布がなだらかになり、情報の問題にも慣れ、着実に力をつけているという様子がうかがえる。一方で、平均点より下の層が、なかなか伸びていないという課題が見えた。

    注目が集まっているプログラミングの問題では、成績の階層別に正答率を見ていくと、正解できた受験生とできなかった受験生が明確に分かれているという状況であった。 特に、大問の中で、最初の「フローチャートの理解」でつまずき、そのまますべての設問で正答率が低いという傾向が見える。そもそもプログラムの目的を理解できない生徒が多いのではないかと推察された。これらのことから、共通テストのプログラミング問題において求められるのは、

    • 何のためのプログラムなのか、目的を正しく理解する読解力
    • 他者がつくったプログラムが、その目的に沿ったものなのかを確認する読解力

    まず、この2つの読解力であると加賀先生は指摘した。

    事例紹介 定期考査の役割と作問・評価

    東京都立立川高等学校 情報科指導教諭 佐藤 義弘 先生

    東京都立立川高等学校
    情報科指導教諭 佐藤 義弘 先生

    東京都立立川高等学校

    情報科指導教諭 佐藤 義弘 先生

    定期考査の思考問題で共通テストにつなげる

    佐藤先生の定期考査のコンセプトは「知識問題40%、思考問題60%」とされ、これは生徒にも事前に公表しているという。

    知識問題において、教科書の知識的な内容を問う問題では、授業で使用していない教科書の記述も使うという。教科書ごとに表現が微妙に異なっているため、生徒は暗記頼りではなく、少し考える必要が出てくるという効果がある。また、択一式の問題では、「誤ったものはどれか」という形式が多い。これには「正しいものはどれか」とすると、誤った選択肢を3つも考えるのが困難だという背景がある。

    思考問題では、共通テストも意識して、教科書や授業で扱っていない、初見の問題を出題するように工夫されている。問題文の説明を理解して、学んだことを活用して解く問題である。また、問題文の点検においては、ChatGPTも活用されている。AIに解かせてみて、正答を導けない問題文や選択肢は、生徒も誤読する可能性がある。そこでチューニングするということだ。

    定期考査における「良問」と作問の課題

    佐藤先生が考える「良問」とは、以下のようにまとめられる。

    • 考えさせる問題=学んだことを尋ねるのではなく、学んだことを活用する
    • 学びがある問題=リード文から学べる、テスト後の学習内容の前振りとなる
    • 共通テストに役に立つ=「学んだことを使って解答する」ということに慣れる

    たとえば、数学Ⅰでデータの分析を学んだあと、情報でデータの分析を学習する前に、情報のテストでデータの分析を出題したこともあるという。会話文で、数学で学習した内容を活用するように誘導しつつ、計算式に当てはめれば解答できるような問題を出題。テストのあとの情報の授業で、改めてデータの分析を学ぶという順番である。

    しかし、そのような問題をつくるには、苦労も多い。初見の問題、教科書+αの問題をつくろうにも、そうそうアイデアが降りてくるわけではない。プログラミングの問題は、生徒が好奇心をもって取り組める題材探しが難しい。 また、データ分析は、ちょうどいいデータが、転がっているわけでもない。「このワークショップでは、そのような難しさも共有しながら、皆さんからもお知恵をいただきたい」とディスカッションへの期待でまとめられた。

    事例紹介 模試から考える「良問」

    河合塾講師 加賀健司

    河合塾講師 加賀健司

    模試の2つの役割「測る」と「図る」

    再び、加賀先生から、模試を作成する立場から考える「良問」について語っていただいた。

    まず、模試の役割を、以下のように定義した。

    • 受験生が学んだことの定着を「測る」
    • 受験生が学んだことの定着を「図る」

    「測る」という点では、受験生が学んだことを正しく覚えているか=知識、そして、使いこなせるか・問題解決に結びつけられるか=思考・判断を測り、受験生にとって、どのような「穴」があるのかを明らかにしなければならない。

    河合塾講師 加賀健司

    具体例として、特許権に関する問題が取り上げられた。4択問題であったにもかかわらず、正答率が著しく低かった問題である。 特に、選択肢の中の「発明」と「発見」の区別が不十分であったことが要因となり、誤答に引き寄せられてしまったと推察される。受験生が「常識的に考えれば解ける」と思って、注意が不足していたことが浮き彫りになった。こうした間違いを経験することで、自らの思考や知識に対して自覚的になることが重要だと指摘する。

    学んだことの定着を「図る」とは、復習を促したり、模試をきっかけにもう少し考えてみたくなるということである。そのためには、受験生がさらに深く考え、学習意欲を高めるような、面白い題材を提供しなければならない。「測る」と「図る」が揃って、「良質な問題」であると考えている。

    作問の課題には他教科のノウハウも活用

    しかし、そのような良質な情報の問題をつくるのは、容易なことではない。

    特に、情報デザインの分野においては、可視化・構造化・抽象化といった情報デザインの基本を選択肢に反映させ、かつ受験生を惑わせる魅力的な誤答を作成することに難しさを感じている。誤答は、明確に誤りだと断言できなければならない一方で、それが明瞭すぎると簡単に誤りだと分かってしまうというジレンマに悩まされる。 また、他の教科、特に数学との重なりについても慎重に考える必要がある。グラフの読み取りや計算問題が出題されることも多いが、それ単体では数学の問題である。情報で学ぶべきところは何なのか。グラフであれば、解釈や考察といった要素を入れる必要がある。 さらに、データの分析やモデル化とシミュレーションでは、佐藤先生と同様、題材探しが大きな課題となっている。問題として一つのまとまったストーリーを組み立てることができ、適切なデータを用意できる題材を探し、それを、受験生がイメージできる状況に落とし込まなければならない。こういった作問の課題に対して、他教科での作問のノウハウを活用して対応している事例も紹介された。

    ディスカッション

    議論を通して、他の先生の視点を得る貴重な機会

    後半は、参加者によるグループディスカッションが中心となった。加賀先生から提示された作問サンプルに対して、グループの中で評価を行った後、実際に、選択型問題の選択肢を考えるというワークである。 前半の事例にもあったように、各グループでは、特に誤答の作成に苦心したようである。しかし、そもそもの設問の流れから考え直したり、文章ではない選択肢の可能性を検討したり、議論が広がっていく様子もうかがえた。

    河合塾講師 加賀健司

    多くの学校では、情報科の教員は1名のみ。普段は、情報の問題についてアイデアを持ち寄ったり、今回のように叩き台をつくって意見を求めることもできないという状況だろう。 参加した先生方には、作問の難しさを共有しながら、他の先生方のさまざまな視点を得る貴重な機会となったことが、アンケートからもうかがえた。佐藤先生からも「情報科が定着し、せめて1校2人の体制になれば、また違った展開になるだろう」と期待のコメントが述べられた。

    (※本文中の所属・役職などはイベント開催時のものです)

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