SDGsに挑む科学技術イノベーション

2021年11月16日掲載

SDGsに挑む科学技術イノベーション

2030年の達成に向け、世界各国が取り組みを進める「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。私たちの暮らしに密接に関わる17のゴールが定められています。実現に向けては国や企業はもちろんのこと、市民の間からも多くの知恵や工夫が持ち寄られており、それらが連携することで大きなうねりとなり、社会を変えようとしています。17のゴールのなかには、科学技術が大きな役割を果たすものも多数含まれています。今回は、SDGsを力強く前進させている革新的な科学技術に注目します。

科学技術イノベーション(STI)は、SDGsを実現するための重要なアプローチ

人類は長い歴史においてしばしば、革新的な科学技術の進歩、すなわち「科学技術イノベーション(Science, Technology and Innovation:STI)」によって大きく社会や経済を飛躍させてきました。特に日本のように資源が限られた国では、社会的課題の解決や豊かな暮らしの実現に向けてSTIが果たす役割は大きいです。まずはSDGsの実現に向けて熱い期待が寄せられている、注目のSTIを見てみましょう。

事例1省エネ型海水淡水化・水再利用統合システム

都市化の進行にともなって高まる水の需要をまかなうため、海水を真水に変えるシステムが活用されています。日立製作所が開発したシステムは、ろ過する海水に下水再利用プロセスの水を混ぜ合わせる技術を導入。また、従来よりも低い水圧でろ過に用いる逆浸透膜へ送水する技術も開発しました。さらに、AIによる過去のデータ解析により、逆浸透膜の目詰まり問題を解消。ポンプにかかる電力費の削減を可能にしました。これらの新技術により、従来の海水淡水化プラントに比べて30%以上の省エネ化が実現されました。

省エネ型海水淡水化・水再利用統合システム
6 安全な水とトイレを世界中に

事例2津波を監視する海洋レーダー

地震大国・日本にとって、津波への備えはまちづくりや安心・安全の暮らしに欠かすことができません。長年にわたって海洋レーダーの開発を行ってきた三菱電機は2019年に、沿岸への到着まで約30分かかる沖合50kmの津波を捉える技術を開発しました。地球表面に沿って回り込む性質がある短波帯の電波を用いることで水平線の向こう側まで見通す技術や、「浅水長波理論」と呼ばれる津波の方程式を用いたこのレーダーは、津波の誤検出率は0.1%以下まで低減されているうえ、水位推定の誤差は50cm以内に抑えられています。今後、大学機関と連携しながら2025年の実用化がめざされています。

11 住み続けられるまちづくりを

事例3衛星データを利用した農業

日本が行う国際協力の中心的組織として、教育や保健医療、都市開発・地域開発、貧困削減など様々な分野で活動している国際協力機構(JICA)。農業開発・農村開発も重要なテーマで、アフリカやアジアなどを中心に、農業振興や生産性の向上、農家の支援などを行っています。この活動にあたってJICAがタッグを組んだのが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)です。両者はミャンマーのバゴー地方で、栽培されている作物の種類や分布、灌漑が整っている面積など農業の指標となる情報を、衛星データを用いて収集しました。今後の各地での農業開発にあたってJICAは、この手法を採用していく予定です。

2 飢餓をゼロに
衛星データを利用した農業

事例4マラリア撲滅に貢献する蚊帳

蚊が媒介となるマラリアは人類にとって大きな驚異となっており、世界では年間650万人以上が命を落としています。この状況に歯止めをかける技術として期待されているのが、住友化学が開発した蚊帳「オリセット®ネット」です。オリセット®ネットは、ポリエチレンにピレスロイドという防虫剤を練り込んだ糸でできています。耐久性に優れたポリエチレンの性質に加え、洗濯しても糸のなかから練り込んだ防虫剤がしみ出てくる「コントロール・リリース」という技術により、長期の防虫効果が実現しました。オリセット®ネットはUNICEFなどの国際機関を通じて、80以上の国々に供給されています。

3 すべての人に健康と福祉を
マラリア撲滅に貢献する蚊帳

事例5無加湿環境で作動する燃料電池材料

酸素と水素を燃料とし、水のみを排出するクリーンなエネルギー源として期待が集まる燃料電池。性能向上のためには、湿度ゼロ・温度120~160℃の条件下で水素イオンを高速伝導する電解質の開発が求められていました。これを実現したのが、京都大学アイセムスや自動車部品メーカー・デンソーなどの研究グループ。水素イオンを多く持つリン酸同士を金属イオンでつなぎ合わせてネットワーク化させ、さらに、結晶化を抑制するアンモニウムイオンを同時に入れることでつくり出した「配位高分子ガラス」を電解質として用いることで、従来の課題を解決したのです。この技術は、よりコンパクトで安全な燃料電池車の実現に貢献することなどが期待されています。

7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに

新たな技術を生み出す推進力は
既存の垣根を越える「ボーダーレス」

上記で紹介した5つの事例にはある共通点があります。それは、研究開発を行った組織や技術の分野など、既存の「垣根」を越えて取り組んだという点です。事例5の京都大学アイセムスも、「多様な専門領域を統合し、科学の新しい地平線を切り拓く」ことをめざして活動している研究組織です。価値観や課題が多様化・複雑化した現代社会では、従来のように1つの分野から課題解決に取り組んだとしても、思うような成果をあげにくくなっています。様々な分野の専門家が知見や技術を持ち寄り、多角的に問題を見つめて解決策を検討することが、本質的な課題解決には不可欠なのです。異なるバックグラウンドを持つ人が1つの目標のために集まり、切磋琢磨する「ボーダーレス」な活動が、SDGs達成のカギを握っているといえるでしょう。

課題の解決にはボーダーレスな取り組みが不可欠

国もボーダーレスを推進!

「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」
国立研究開発法人科学技術振興機構は、STIを加速させて社会課題の解決を図るには「社会課題に国内の地域で取り組んでいる人」と「自らの技術シーズを社会課題への取り組みに活用したい人」が手を組み研究開発を行うことが重要と位置づけ、そのような取り組みを「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム」として認定・助成を行っています。2021年度は、DX(デジタルトランスフォーメーション)を用いた医療社会モデルや障がい者就労支援のシナリオ創出、人とロボットが協働できる海岸・海洋汚染対策の多様な活動モデルなどが採択されました。

大学選びのチェックポイントにも!

様々な「ボーダーレス」のカタチ

時代に即した研究や教育を行うべく、大学でもこれまでの垣根がどんどん取り払われていっています。 ボーダーレスは、研究や教育、さらに大学生活の充実ぶりを推し測るひとつの指標ともいえます。

学生×教職員

勉強や学生生活のサポートをしてもらったり、“社会人の先輩”としてアドバイスや刺激をもらったり。教職員との距離の近さは、学びや研究、そして学生生活を実りあるものにするための大切な要素のひとつです。

文系×理系

文系・理系の学生が一緒に受講できる科目がある、クラブやサークルなどの課外活動が活発に行われている、1つのキャンパスに文系・理系両方の学部がある、など。「違いが大きい」といわれる文系と理系だからこそ、交流することで得られる刺激は多いです。

学部×学部

異なる学部の学生がチームになり、地域の課題解決や社会貢献活動に取り組むプロジェクト型の学びを導入している大学も多いです。他学部の専門的な授業を履修できたり、「第2専攻」「副専攻」などの位置づけで学ぶことができる大学もあります。

大学×企業・行政・地域社会

企業や自治体の職員を授業に招いて講義をしてもらっている大学や、学生が企業や地域に出向いて一緒に活動を行っている大学があります。大学や学生という枠を越え、現場や社会人から学ぶことが課題発見や将来の目標設定に役立っています。


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