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    公開日
  • 2026年05月25日
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理系シフトの先に 適性、関心を大切に

2040年には文系人材の余剰・理系人材の不足という推計を受けて、国を挙げた「理系シフト」が加速しています。そこで本企画では、「理系人材の育成」と「市民のための理数」の両面から、これからの高校教育について、東京大学大学院 教授・隠岐さや香先生と考えます。

  • この記事は、進学情報誌Guideline 2026年4・5月号変わる高校教育「理系シフトの先にー理系人材育成と市民のための理数ー」掲載記事より作成しました。

進学情報誌Guideline 2026年4・5月号(電子書籍版)

理系イメージの解像度が粗く、統計も不十分

ここ数年の理系人材育成について、端的に言えば、理系イメージの解像度が粗いのではないかと感じています。語られる施策や課題によって、理工系だけでなく、農学系、医療系を含む場合とそうでない場合があるなど、理系比率の数字が変わります。おそらく、語る人それぞれのビジョンが異なるからです。

たとえば、数学的思考が強くても医師としてはミスマッチとなるケースもあります。その立場からは、数学の成績が優秀な人にもっと理学部に進んでほしいという考え方もあるでしょう。

また、「デジタル」や「グリーン」というキーワードで理系人材が語られることもありますが、グリーン分野は必要な人材の幅が広く、気候変動などの課題には、エネルギー需給や国際的なルールづくりなど、経済学あるいは法律学の素養を持つ人材も必要ですが、そこはあまり語られていません。

さらに、デジタルについて言えば、本当に欲しい人材が量的に把握できていない可能性もあります。OECDのデータから、各国の分野別学生比率をグラフにしてみると、日本は「情報・コミュニケーション技術」の分野がゼロになります<図>。これは学生がいないのではなく、データが抜けているのです。日本側のデータは国際的な基準とは異なり、情報系分野の学生を工学や理学の中に分類していると考えられます。

<図>各国の分野別学生比率(大学学部教育相当) OECD「Education at a Glance 2024」より
<図>各国の分野別学生比率(大学学部教育相当) OECD「Education at a Glance 2024」より

※隠岐教授提供資料を基に河合塾で作成

こうした国際比較をすると、確かに「芸術と人文学」はやや多いですが、「情報・コミュニケーション技術」人材は日本だけが際立って少ないのかがデータ不足で判断できません。また、「工学・製造・建設」に至っては他国と遜色ありません。「自然科学・数学・統計」などいわば理論系の分野は多くありませんので、そこは課題だとは思いますが、必要と言われている情報関係の人材の定量的な把握が不確かなまま、議論が進んでいるように見えてしまいます。

これらは学士課程の話ですが、大学院の学生数で国際比較をすると、理系人材だけでなく、経営学などの社会科学、つまり文系人材も足りていない状況です。また、理系人材を増やすと言っても、人間の知的関心の領域は、「自然」「人間」「抽象」に大別され、関心を持つ人数比は大きく変動しないという研究結果もあります。

高校生にはそれぞれの適性・関心があります。急激に人の関心を変えるというのは難しいことではないでしょうか。

各国の入試改革と文理のアイデンティティ化

近隣諸国の入試改革の例を挙げると、中国と韓国では文系・理系の二分法を弱める方向に改革が進んでいるようです。広く浅く問うようなイメージでしょうか。この背景には、OECDが定義するコンピテンシー概念があると思います。

OECDのコンピテンシーは、知識・技能の習得だけでなく、活用など複雑な要求に対応できることが求められるので、特定の領域に特化しない形の方が良いと判断しているのではないかと思います。日本の場合、高校教育で学ぶ内容が多く、要求度も高いと言われています。入試で問われる水準も高く、生徒が文理両方を学ぶのは大変だという現状があるのかもしれません。

さらに、興味・関心の領域に強い偏りがある生徒の中には、自分の関心のない高校レベル以上の内容はどうしても頭に入りづらいという生徒もいるので、文理分けは現実的な対応かもしれません。文理分けに数学が基準となっている部分もありますが、そうではなく「自然」か「人間」かなど、関心の領域が基準となってほしいところです。

文理分け

個人の関心や適性に差はありますが、広く浅くでもよいので学びの幅は広い方が良いと思います。現状ではやむを得ないところはあるとしても、将来的に今のままの形でずっと続けていくのか、今後、議論になる可能性はあるでしょう。

また、日本の大学生は、文系・理系に固執する傾向が見られ、留学生と比較すると顕著です。アイデンティティ化していると言ってもよいでしょう。しかし、それによって自分の可能性までも抑えてしまっているとしたら残念です。

ただ、社会の側にもその傾向はあるようで、就職活動で文理融合教育を受けてきたことを説明しても、企業の採用担当者に理解されなかったという話も聞きます。日本社会の中に見えない文系・理系を分けるラインがあるのかもしれません。

文系・理系に限らず多様な才能が生きる社会

これからの社会を考えると、この分野を学んでおけば大丈夫という感覚はむしろリスクになるでしょう。技術や環境が先に変化してしまうので、個人もそうした変化にあわせて変わることを求められる場面が増えています。すべての人がそのような変化に対応する必要はないと思いますが、社会の指針となる部分もあります。

つまり、次に何をすれば安心か、うまくいくかを確実に予測するのは難しいので、むしろ、自身の関心のままに、何をしたいのかを見つける気持ちが大切です。そのため、高校では個人の関心をゆっくりと育てられる環境が必要だと思います。

先日、理科の先生方と話をしたとき、日常で使われている知識が実は高校で学ぶ内容に関係があるといったことを、自分が高校生のときにもっと意識して習いたかったし、教えるときもそれができるようにしたいとお話しになっていました。また、大学でも、数学の社会的役割をもっと知りたい、あるいは知りたいというニーズに応えたいという意欲を持った、数学の研究者や数学教員をめざす学生が増えています。

高校生には、根本的知識のレベルではなくても、数学や科学でわかること、わからないことの大まかなイメージを持って大人になってもらいたい。そして、単純な文系・理系ではなく、それぞれの才能が適切に評価され、多彩なセンスや能力が生きる社会になってほしいです。


隠岐 さや香(おき・さやか)

東京大学大学院 教育学研究科 教授。専門は科学史、大学やアカデミーの歴史や「学問の自由」の思想史など。著書に、『文系と理系はなぜ分かれたのか』(星海社新書)などがある。文理分けの歴史や背景などについて長年研究を重ねている。

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