2023年度入試を振り返る私立大の概況
志願者・合格者とも減少
私立大の志願者は前年比96%と減少しました<図表11>。方式別にみると、共通テスト方式に比べ、一般方式は前年比95%と減少が目立ちました。河合塾の入試結果調査データでは、国公立大と併願した受験生の私立大出願数は共通テスト方式でやや増加していました。共通テストの少数教科受験者が減少するなか、大学が公表した入試結果の集計では共通テスト方式の減少率が低く抑えられたのは、国公立大併願者が増えたためです。一方、一般方式では国公立大併願者は変わらず出願していたものの、私立大専願者では出願数が減少していました。このため、一般方式では減少したようです。
合格者数は前年比98%と5年ぶりに減少しました。一般選抜から学校推薦型・総合型にシフトする大学が増えており、一般選抜全体が縮小傾向にあります。
なお、二期入試では合格者数を大きく減らしています。志願者が減少していることもあり、二期入試で入学者を集めるより、一期入試の受験者から補欠合格、追加合格で入学定員を充足させる大学が増えているようです。
全体の志願者数は減少しましたが、個別の大学をみると志願者の増減がみられました。志願者が増加した大学をみると、前年度入試で志願者が減少した反動で増加した大学が多くみられます。ただ、千葉工業大、明治大、関西学院大などは前年に続き志願者が増加しており、人気が続いています。一方、志願者減少大では志願者の減少が続く大学がみられています。とくに今春の志願者が3千人以上減少した摂南大、神戸学院大は4年連続で減少が続いており、2大学とも志願者数は4年前と比べ半数ほどまで減少しています。
志願者数 | 合格者数 | 倍率(志/合) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
2023 | 前年比 | 2023 | 前年比 | '22 | '23 | |
全体 | 3,060,295 | 96% | 1,083,315 | 98% | 2.9 | 2.8 |
一般方式 | 2,032,540 | 95% | 656,817 | 96% | 3.1 | 3.1 |
共通テスト方式 | 1,027,755 | 98% | 426,498 | 102% | 2.5 | 2.4 |
一期 | 2,866,523 | 97% | 1,028,250 | 99% | 2.9 | 2.8 |
二期 | 193,772 | 89% | 55,065 | 82% | 3.2 | 3.5 |
- 河合塾調べ(5/23現在、531大学判明分)
地区内でも競争性に差がみられる
私立大全体の倍率は前年から0.1ポイントダウンし、2.8倍となりました。首都圏、近畿地区などの都市部の倍率は3倍台となっていますが、地方では1倍台後半から2倍台前半となっています。<図表12>は各地区の大学ごとの倍率を文系・理系に分けて「箱ひげ図」で表しました。上の文系のグラフの首都圏を例に挙げると、真ん中、2倍のあたりにある×印は平均値を指しています。各大学の倍率を足して、大学数で割ったときの数字になります。そして、×印の下にある横線は中央値を指します。中央値は首都圏の文系大学の倍率を高い順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置している大学の倍率を示しています。
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首都圏では、半数の大学が1.8倍以下ということがわかります。同様にみていくと、文系では「首都圏」「近畿」を除く地区で、半数以上の大学が1.5倍を切っています。なかでも「東北」「中国・四国」では箱ひげ図が短く、地区内で一律に競争性が低い様子がうかがえます。理系では「首都圏」をはじめ、箱ひげ図が長い地区が多くみられ、文系に比べ大学間で競争性に差がみられます。
文理とも、私立大全体の倍率が2.8倍であることを踏まえると、難関大や有名大の倍率とその他の大学の倍率では大きく異なることが分かります。
難関大でも合格率は上昇
難関大・有名大でも競争緩和は進んでいます。<図表13>は首都圏の難関大・有名大の成績層別の合格率を今春と3年前の2020年度で比較したものです。早慶上理では、とくに偏差値60以上の成績層の合格率がアップしています。MARCHでは偏差値55~60未満の成績層の合格率が36%と、3年前から13%もアップしています。日東駒専では偏差値50~55未満の成績層の合格率のアップが目立っており、3年前の合格率が39%だったのに対し、今春入試では60%と受験者の半数以上が合格しています。
受験者の成績層 | 合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|
2020 | 2023 | (23-20) | |||
早慶上理 | 65以上 | 53% | → | 61% | (+8%) |
60~65未満 | 23% | → | 30% | (+7%) | |
55~60未満 | 10% | → | 15% | (+5%) | |
50~55未満 | 3% | → | 7% | (+4%) | |
45~50未満 | 3% | → | 4% | (+1%) | |
45未満 | 2% | → | 4% | (+2%) |
- 河合塾入試結果調査データより
- 早慶上理:早稲田大、慶應義塾大、上智大、東京理科大
受験者の成績層 | 合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|
2020 | 2023 | (23-20) | |||
MARCH | 65以上 | 72% | → | 77% | (+5%) |
60~65未満 | 49% | → | 60% | (+11%) | |
55~60未満 | 23% | → | 36% | (+13%) | |
50~55未満 | 7% | → | 16% | (+9%) | |
45~50未満 | 2% | → | 5% | (+3%) | |
45未満 | 1% | → | 2% | (+1%) |
- 河合塾入試結果調査データより
- MARCH:明治大、青山学院大、立教大、中央大、法政大
受験者の成績層 | 合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|
2020 | 2023 | (23-20) | |||
日東駒専 | 65以上 | 82% | → | 83% | (+1%) |
60~65未満 | 77% | → | 86% | (+9%) | |
55~60未満 | 59% | → | 76% | (+17%) | |
50~55未満 | 39% | → | 60% | (+21%) | |
45~50未満 | 23% | → | 40% | (+17%) | |
45未満 | 14% | → | 23% | (+9%) |
- 河合塾入試結果調査データより
- 日東駒専:日本大、東洋大、駒澤大、専修大
<図表14>は同じく近畿地区の難関大・有名大の成績層別の合格率をみたものです。近畿地区は首都圏のグループ以上に、合格率のアップが目立っています。2グループとも、それぞれのボーダー近辺の成績帯で合格率が上昇しています。
受験者の成績層 | 合格率 | ||||
---|---|---|---|---|---|
2020 | 2023 | (23-20) | |||
関関同立 | 65以上 | 80% | → | 86% | (+6%) |
60~65未満 | 63% | → | 73% | (+10%) | |
55~60未満 | 41% | → | 56% | (+15%) | |
50~55未満 | 19% | → | 36% | (+17%) | |
45~50未満 | 6% | → | 16% | (+10%) | |
45未満 | 2% | → | 5% | (+3%) |
- 河合塾入試結果調査データより
- 関関同立:関西大、関西学院大、同志社大、立命館大
受験者の成績層 | 合格率 | ||||
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2020 | 2023 | (23-20) | |||
産近甲龍 | 65以上 | 67% | → | 71% | (+4%) |
60~65未満 | 75% | → | 71% | (-4%) | |
55~60未満 | 67% | → | 71% | (+4%) | |
50~55未満 | 46% | → | 59% | (+13%) | |
45~50未満 | 27% | → | 42% | (+15%) | |
45未満 | 11% | → | 24% | (+13%) |
- 河合塾入試結果調査データより
- 産近甲龍:京都産業大、近畿大、甲南大、龍谷大
注目の入試変更があった大学の状況をみていくと、早稲田大(教育)は今春入試より共通テスト方式を導入しましたが、志願者は教育学部全体で前年比91%と他学部に比べ減少が目立ちました。方式別にみると、共通テスト方式の倍率は3.0倍と一般方式(倍率6.9倍)と比べても低く、各方式の合格率もほとんどの学科・専攻で共通テスト方式の合格率が一般方式を上回っています。
上智大では共通テスト方式に3教科型を新設しました。多くの志願者が集まり、倍率は4.5倍と既存の2方式よりも高くなりました。共通テスト方式の受験者の共通テスト受験教科数をみると、4教科型は全体の9割弱が5教科7科目を受験しています。一方、新設の3教科型では3教科受験が5割弱、5教科7科目受験者が4割超とはぼ半分に分かれました。
文低理高をベースに実学志向がみられる
<図表15>は学部系統別の志願状況をみたものです。文系の各系統では軒並み志願者が減少したなか、「経済・経営・商学」系統は前年比100%となり、受験生の実学志向がみられました。一方で、不人気が続く国際系は今春も志願者が減少しました。理系では「理」「農」系統で堅調な人気を示しており、文低理高の傾向がみられます。「工」系統は全体では志願者は減少しましたが、分野別でみると人気に差が出ました。
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医療系では「医」の志願者は増加した一方で、近年人気だった「薬」で志願者が減少しており、人気が落ち着きました。学際系の「情報」分野は志願者が増加しました。これは今春、複数の大学で情報・データサイエンス系の学部が新設された影響であり、倍率はダウン、合格しやすくなっています。
首都圏・近畿圏回帰の動き
2021・22年度入試では、新型コロナウイルスの影響で、受験生の地元志向が顕著でした。今年は各地区とも地元の大学を志望する受験生の割合がダウン、首都圏または近畿圏を志望する受験生の割合が高まりました。とくに北陸地区や中国・四国地区で近畿圏を志望する動きが目立っています。コロナの収束が見えてきたことに加え、続く競争緩和の影響で難関大が合格しやすくなっていることなどから、今年は首都圏・近畿圏の大学を目指す志向が高まりました。
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