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  • 2024年08月05日

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教育の情報化の現状と課題 (1)社会の今 東京学芸大学教職大学院 堀田龍也先生

今回は、3つのお話をしたいと思います。
まず世の中の変化と、それによって学校教育が受ける影響。次に、その中で現場の先生が頑張っていらっしゃる様子をお話しします。最後に今、あるいはこれから課題になるであろうことについて、お示ししたいと思います。

※本文中の所属・役職などは、原則取材当時のものです

教育の情報化の現状と課題
 【 連載第1回(全3回)】
(1)社会の今
(2)学校現場の努力の様子
(3)教育の情報化のトレンド

教員の年齢構成の変化は、今後ますます大きな課題に

公立学校年齢別教員数のグラフ(令和5年度)

こちらは、令和5年度の全国の公立学校教員の年齢別の人数構成です。縦軸が年齢、横軸が人数で、一番人数が多い年齢層が2万人強ですが、ここは現在59歳、すぐに定年になる年代です。これに続く50代の層が今後次々に退職されるというのが、学校の現状です。

これは、若返りという意味では望ましいことかもしれませんが、一方で、ベテランが持っている、長年培われたさまざまなノウハウが次々に失われていくということでもあります。教育には、簡単に変えてはいけない部分も当然ありますから、それをどのように若い人に伝えるか、というところが一つの大きな課題です。

こういったノウハウは、一般的には、40代の中堅の先生が学年主任や研究主任になって、上の世代から受け継いだものを若い人たちにつないでいきます。ところが、今はその中堅層の人数が一番少なくて、その人たちが学校のいろいろな中核的な任務を背負い、かつ若い人を育てる、ということになります。

一方で、30代をボリュームゾーンとして若い先生の数が大きく増加しています。少ない人数でたくさんの若い人を指導することには、当然限界があります。

地域別公立学校教員の年齢構成(令和5年度)

先ほどの教員の年齢構成は、地域別によってかなり違いがあります。関東圏は、すでに20代から30代の先生が多くなっています。東京都は、だいたい初任から5~6年は同じ学校にいますが、その間に、学年主任などが回ってくることが多いようです。

1学年3学級であれば、5年目の先生が学年主任で、あとは2年目の先生と初任の先生ということが普通にあります。

それに比べると、東北地方はまだベテランの方が圧倒的に多くて行き届いた指導ができるので、そのおかげで学力が保てているということもあります。ただ、逆に言えば、10年経ったらこのベテランの先生方は皆おられなくなるので、これも大変なことになるでしょう。

しかも、東北地方は人口減少の最中にあって、そもそも先生になる年代の人口が少ないため、教員養成系の大学でも、すべての教科の免許を出すことか難しい状況になっています。そういった状況の中で、今後の日本中の教員養成をどうしていくかというのは、公教育の維持という観点でも非常に大きな課題になっています。

人口減少社会では働き方も変える必要があるが…

人口の入れ替わりというのは、当然先生の世界だけのことではありません。ご存知のように、日本全体でも出生数はどんどん減っています。

日経新聞の予測によると、2070年までの日本の人口は、0~14歳の子どもの数が毎年減っていきます。子どもは成長すれば、16~64歳の社会の担い手の年代に移行していきますが、この年代の人口も減っていくことになります。

一方で65歳以上の高齢者の人口は横ばいか、やや増えています。労働人口が減少するため、もう65歳で仕事は辞められないということです。しかし、高齢者は今までと同じ仕事の仕方はできないので、多様な働き方が用意されなければならないことになります。

世界の人口は増加し続ける中で、日本の人口は激減しています。その中で日本の位置を保っていくのは、なかなか難しいことです。そして、その影響はすぐ経済に現れます。

経済の話でいうと、為替レートや物価水準、購買力といった経済状況を示す指数として、「ビッグマック指数」というものがあります。これは、某ハンバーガーチェーンが出しているビッグマックというハンバーガーをいくらで買うか、というものです。ビッグマックはほぼ世界中の先進国にあって、レシピも同じです。それにいくら払えるか、ということは、つまりはその国の経済状況を表す一つの指標となっています。

2023年7月のデータでは、日本でビッグマックは450円ですが、スイスは1,151円です。つまり、スイスは国民がビッグマック1個を買うのに1,151円払える経済状況にあるということです。

もちろん、日本よりもっと下の国もありますが、先進国の中では日本は相当お安い。言い換えれば、この価格でなければ国民が持ちこたえられない国になっているということです。

ですから、他の国の人が日本に来ると、いろいろなものがとても安く見えるので、外国人が日本で爆買いをする、というのが普通になってきています。今、オーバーツーリズムのためにいろいろ困ったことが起きていますが、それを阻止してしまうと外国からのお金が日本に落ちなくなって、もっと厳しい状況になってしまいます。

さらに言えば、外国から日本に買い物に来るだけでなく、住んで労働者になってもらわないといけない、という時代になっています。その子どもたちは公立学校に行くので、日本語が母国語ではない子どもたちがたくさん入学してくることになります。これはすでにいろいろな先進国で起きています。最近出入国管理法も変わったので、多分日本でもこういった状況が拡大するでしょう。

そうすると、先生の足りないマンパワーだけで十分な対応ができるのか、ということを真剣に考えなければなりません。これは制度的課題であるとともに、運用的な課題でもあります。

人口減少と多様化の時代に、身に付けておくべき能力とは何か

このような時代を生きる子どもたちに、どのような能力が求められるのでしょうか。

日本では、学力のKPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)を何らかの点数・ポイントが向上したことに帰着しがちで、入試もその一つと考えられています。

入試は人生の一つのハードルで、それを乗り越えることによって成長することがたくさんありますから、入試自体はどこの国にもあり、それ自体が悪いとは思いません。大事なのは、その入試の中身が、私たちが子どもの頃とは大きく変わっているということに先生たちがどの程度敏感でいられるか、ということです。

さらに、入試はゴールではありません。子どもたちは、入試を乗り越えた後もずっと学び続けなければなりません。その学び続けるエンジンを、学校にいるときにきちんと身に付けられる教育をしたか、ということについて、私たちはどれだけ責任を持てるのか。これは非常に大きなことだと思います。

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